『響け!ユーフォニアム』と吹奏楽部の思い出

トゥッティ!

トゥッティ!

 買ったばかりの「トゥッティ!」を聴きながら、思わず「吹奏楽部の思い出」などと書いてしまったが、おれが吹奏楽部であったことは一度もない。なにせおれは楽譜を読めない。とはいえ、『響け!ユーフォニアム』を見ると、中学高校時代の吹奏楽部の連中のことを思い出さずにはいられない。
 わが母校は吹奏楽部の強豪校だった、のだと思う。全国大会で金賞をとったこともあるらしい(それが甲子園優勝と同じことなのかどうか知らない)。それに、関東大会にずっと出場しているという。おそらくは、県大会は突破できるのだろう。そして、よくわからないが金賞もたくさん獲っていたような気がする。『響け!』第一回を見る限り、「ダメ金」というやつなのかもしれない。そのあたりはよくわからない。
 よくわからないが、ともかく当時、神奈川の中高一貫校の底辺だったわが校の花型といえば吹奏楽部だった。全部活の中でも特別扱いというところがあった。野球部は弱くても応援の演奏は負けねえという感じであった。あと、いろいろの式典のとき、校歌も国歌も一般生徒がいちいち「合唱」する必要はなくて、全部吹奏楽部が演奏してくれたから楽なものだった。
 その吹奏楽部を率いる先生が、そのまま音楽の先生だった。吹奏楽なのに顔がジェームス・ブラウンに似ているとだれかが言い始め、顔がジェームス・ブラウンに似ているにふさわしい、ありがたくない呼び名で呼ばれていた。授業はたいへん楽なもので、ジェームス・ブラウンが師匠だという齋藤秀雄の話を聞き、あとはなにかクラシックの曲を聴かされたりした。そのさい、「音楽を聴くときに気持ちよければ眠ったっていいんだ」と言われたりした。ただ、人は「眠っていい」と言われると、かえって眠れないものだった。
 と、ふだんはそんな調子で、教科書などなにも使わずなにも教わらずという授業なのだけれど、一人一芸というのか、ともかくなにか楽器を使って発表しろというのがテストだった。これには難儀した。なにが悲しくて人前で音を出さなければいけないのか。というか、悲しむ以前にできることなんてありゃしない。おれは仕方ないので小学校時代の教科書とリコーダーを持ちだしてお茶を濁した。たいていのやつがそんなんだった。嫌な思い出ではある。
 さきほどなにも教わらなかったとは言ったが、トランペットのマウスピースを買わされた覚えはある。プラスチック製の白いものだったと思う。あれはなんだったのだろうか。音を出せそうな人間を吹奏楽部にスカウトしようという策略だったかもしれない。おれはといえば「ぶー」という音は出せた。霧吹きの要領で唇を震わせればいいのだと気づいた。汚い話だが、おれは細かい霧吹きをすることはできる。小学校のとき、なぜか流行ったからだ。だから、今でもおれはトランペットからむちゃくちゃな音なら出せるんじゃないだろうかとは勝手に想像している。
 以上がおっさんの思い出話である。『響け!ユーフォニアム』は? といえば、まだ話も途中だしなんとも言えないが、毎週楽しみに観ている。今期はあまりグッとくるアニメが少ないが、『響け!』はいいと思う。上にも書いたが主題歌も買った(加速していく部分が好きだ)。ラジオも聴いている。なんでも中の人たちが楽器を習っていて、イベントで披露するということだが、声優さんも大変である。歌って踊れるは当たり前で、そのうえ楽器までやらなきゃならない。大喜利の舞台に立たされるのと、どちらが大変なのだろうか。想像の範疇をこえている。おしまい。