『チャッピー』〜テンシヨン・フロム・ダ・ヨハネスブルグ〜

ハダリーは自分が誰であるか、つまり如何なるものであるか、解るのでせうか。
――それは我々自身、我々が誰であるか、我々が如何なるものであるかを、それほどよく知つてゐますかね。神が原型に與へるべきだとお考へになつた以上のものを、あなたはその複製に要求なさるのですか。
ヴィリエ・ド・リラダン未來のイヴ


 趙州は犬に仏性があるのか問われて「無」と答えた。機械にゴーストはありやなしや。そして、人にゴーストはありやなしや。われわれが創造主に問うたところで答えはえられぬ。ましてやわれわれの複製たるチャッピーの問いに創造主は答えようもない。とはいえ、この映画、かなり簡単にゴーストを露呈させ、扱ってしまう。それはそれで、われわれの未来の形についての想像であるともいえるが。
 ヨハネスブルグに帰ってきたぜ。とは『第9地区』に帰ってきた感じ、である。『エリジウム』は未見である。どうせなら、ドッグフードまっしぐらなエビの連中も出てくればいい。続編で作ったらどうだ、さもなきゃ『チャッピーは第9地区のエイリアンの夢を見るか』。シガニー・ウィーバーはだれと戦うのか。
 おれにはこのヨハネスブルグ感が実際のヨハネスブルグ感と合致しているのかどうかしらぬ。とはいえ、監督のルーツにある都市なのだから、どこかしら反映しているのかもしれぬ。まるで反映していなくてもよろしい。まあ、あのVodafoneのビルが出てくるあたりはリアルといっていいのだろう。実際にギャングの根城なわけじゃあないのだから撮影できたわけだけれど。
 ヨハネスブルグギャングスタ。ニンジャ、ヨーランディ、アメリカ。ピンク色と黄色に塗り分けられた自動小銃。奇妙な絵と文字に彩られた廃墟。意味のよくわからないタトゥ。これらのセンスは嫌いじゃない。むしろ好きだ。アメリカではない、日本のヤンキー感に通じるなにかがある。このあたりの奇妙なリアルな感じというのは『第9地区』にもあったような気がする。
 そういえば公開前に監督の知らないところで編集云々という話があったように思う。結果、本作はPG-12に指定されている。正直、どこがPG-12かわからんが、やはりギャングスタ歩きというのは問題があるのだろう。あとは麻薬かなにか。では、どこが編集されたのだろうか。暴力シーンだとすれば、なにか流れが不自然に感じられたアメリカの分断ではないかと思うが、そのくらいならまあべつにいいかというところ。でも、ひょっとしたらすごいエロいシーンがカットされているのかもしれない。べつにいいけど。
 さて、話はヴァースの頭に戻る。ヴァースってなんだ? まあいい。やはりAIというものについて、われわれ人類はどうすんの? というのはテーマの一つに違いあるまい。しかし、たしか石黒教授が言っていたと思うが、ロボットを作るということは、われわれ人間が何者かを知ることだという、そういう側面も見逃せない。むしろ正面かもしれない。われわれの意識は解析可能なのか、ゴーストはコピーできるのか、ハッキングできるのか。その点において、本作はわりとなんというか、まあそれほど踏み込んでいないというか、踏み抜いているというか、十分な描写はない。とはいえ一つの答えは示唆しているように思える。それの是非についてはわれわれに投げかけられているとでも言っておこうか。
 ……なんて小難しい(べつに難しくはないか)ことはともかくとして、あれだ、こいつは観ていて飽きさせない映画だ、というのは言っておきたい。おれは映画館で眠気、腰痛、トイレ行きたい、などに見舞われることがたまにあるが、この映画に関しては大丈夫だった。解説部分はニュース映像にしちゃってサクサク進めちゃうニール・ブロムカンプのやり方というのは悪くない。そのあたり、現実世界の複製をわれわれに提示するのだから、人間の複製であるAIを扱うテーマともフィットしているように思えるが、考えすぎかもしれない。まあいい、『第9地区』の最後の方で出てきたアレのでかいのみたいな、「監督、こういうメカ好きだな、こういうの好きなんだな」という趣味感も悪くない。おれはもっと電脳戦みたいなのが好き(『攻殻機動隊』シリーズでハッブルの制御の取り合いをするとか)なんだけど、まあハリウッドらしく肉弾戦というのもいいんじゃないの。
 つーわけで、久々に映画館で映画観たけど(しかし、開始前の映画予告でない普通のCMが長くなりすぎてないか? 大画面で延々と宝石屋やらセブン-イレブンやらの宣伝を見させられるというのはどうも納得できない。薬寿堂と万葉の湯の2本くらいにならないのか?)、値段相応、妥当! だった。ちなみに、スクリーンは小さめで、客の入りは、うーん、まあそこそこ埋まっていたかな、くらいだった。では。

>゜))彡>゜))彡>゜))彡

未来のイヴ (創元ライブラリ)

未来のイヴ (創元ライブラリ)

……リラダン先生は『殘酷物語』とかにもSFあったような気がするが、読んだのもずいぶん前なので。
第9地区 [Blu-ray]

第9地区 [Blu-ray]

……『エリジウム』も借りてみよう。