- 作者: 古内一絵
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2014/01/07
- メディア: 単行本
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藤田菜七子ディープ産駒と初合体
菜七子 ディープ産駒と初コンビ/競馬・レース/デイリースポーツ online
……いや、違った。こっちだ。
閉鎖的な厩舎社会において女性というだけで偏見を持たれる主人公、話題づくりのためのハート柄の勝負服に、セクハラ事件などなど…どこかで聞いたことがあるような話がちりばめられている。恐らく筆者はかなりの取材を経て執筆したのだろう。競馬のレースシーンなどの描写や競馬関係者のやりとりは、なかなかリアルでお見事だ。当事者の気持ちを無視して勝手にブームに仕立て上げるマスコミの描写は、ちょいと耳が痛かったが。
http://www.daily.co.jp/opinion-d/2016/04/05/0008958790.shtml
ハート柄ではなく、バラ柄なのだが、まあいい(ハート柄は実在の騎手だろう)。廃れている地方競馬場、藻屑の漂流先と呼ばれる厩舎、中央から八百長疑惑で追放された調教師……。そんな話である。
正直なところ「恐らく筆者はかなりの取材を経て執筆したのだろう」というデイリースポーツの記者の人の物言いはよくもわるくも正しいように思える。おれはこの著者の経歴を知らないが、どうも競馬の内側にもぐりこんだ人のようには思えない。それこそ、参考文献に挙げられているような大月隆寛のような本当の現場っぽさ、というものはない。とはいえ、地方競馬の現状(最近ちょっと上向いているらしいが)、女性騎手を売りにしようという主催者……、かなりの取材をしているという感じはうけた。しかしなんだ、18歳の現役牝馬というのはちょっとやり過ぎではないか、オースミレパードを超えてしまっている。むしろその脇役牝馬がマスコミに採り上げられるだろ、とか重箱の隅をつつくようなことを言ってみたりもしたくはなるが。
とはいえ、なるほど、なかなかに読ませる競馬小説ではあった。というか、おれは競馬のノンフィクションはちょっとばかり読んでいるが、競馬小説というものはあまり読んだ覚えがない。「そりゃあねえだろ」という感じを受けたくない、という思いがあってのことだ。でも、本書を読んで競馬小説というのも悪くないかも、と感じた。ちょっとばかし登場人物がティピカルすぎて鼻白むところはあるけれど。で、実のところ買って読んでない競馬小説は何冊かある。手を出してみようか。そんな思いも抱いた。「かなりの取材を経て」というのはそれなりに確かだし、うまいこと競馬のこと、馬のこと、地方のことの説明も入っている。競馬入門の一冊としてもいいんじゃあないだろうか。以上。