『成駿伝』を読む

 

成駿伝 孤独の◎は永遠に―

成駿伝 孤独の◎は永遠に―

 

 清水成駿とおれ、おれと清水成駿。そのことは訃報を知ったときに書いた。

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おれにとって清水成駿は「孤独」ではなく「孤高」の◎だった。「1馬」のトップに燦然と輝く孤高の星だった。とはいえ、この本の存在を知ったのは先週の東スポ、虎石のコラムによってであった。東スポの一面に虎石晃を指名したのは清水だという。

それにしても、競馬予想家の追悼本である。このような本が出される競馬予想家、いや、評論家はどれだけいるだろうか。大川慶次郎はどうだったろうか。この先、塩崎利雄にしろ、柏木集保にいろ、井崎脩五郎にしろ、そういうことはあるのだろうか。あるのかもしれない。とはいえ、清水成駿のそれは出た。それを買った。おれはそれを嬉しく思う。

本書で大きくクローズアップされているのはボールドエンペラーの◎である。おれはそのときのことをよく覚えている。おれはそのとき府中の競馬場にいた。時効だと思うから言うが、大学の競馬サークルの面々といた。そして、「清水がボールドエンペラーに本命を打っている!」と湧き立ったのを覚えている。おれはボールドエンペラースペシャルウィーク馬連を買っただろうか。たぶん買っていない。複勝くらいなら買ったかもしれないが、おれの本命はセイウンスカイだったからだ。

そして、おれが清水の本命を信じなくて一番公開したのはウオッカのダービーだ。歴史的な一大事、それに乗れなかったこと、清水が本命にしていたのに乗れなかったこと、これは痛恨だった。

一方で、清水の本命とぴったし合ったのがランドのジャパンカップだった。マイケル・ロバーツが春頃に「ジャパンカップ向きだ」というのを覚えていて、それもあって買った。清水の本命でもあった。清水は一時期ジャパンカップに強かった。意外なことに、海外競馬やその血統にも通じていたと本書で知った。

そう、本書で知ったことも多い。清水成駿とその奥さんこと。こんなことは初耳だった。独身だとか妻帯者だとか想像したこともなかった。あるいは、シンボリルドルフビゼンニシキ、ダービーで単枠指定ビゼンニシキを無印にしたこと。こんなことはおれが競馬を始める前の前のことであって、初めて知った。

ほかにはこんな話。

塩崎 ……ただ、本当に長谷川のことは認めていて、「1馬」に移籍させて本紙予想をやらそうかという話もあったんだよな。

長谷川 ありましたね。結果的には実現しませんでしたけど、いろいろと思い出は尽きませんね。

長谷川とは言うまでもなく長谷川仁志。そんな話もあったのか! あるいは上田琢己など、貴重な証言がいろいろと載っている。そのあたり興味ないよ、という人にはあまりおもしろくないかもしれないが、若干興味あるおれにとってはたいへん面白いエピソードが詰まっていた。

……それからテレ東の競馬中継に出ていたので、「原良馬より目立ってしまってはいかんぞ。彼は優しいようで怖いんだからな」とアドバイスをいただきました(笑)

これは虎石の言。フハッ、原良馬は怖いのか。若い頃のイケメン写真をネタにされているが、あの「ふれあい馬人」の原良馬が怖いとは。なんとなくニヤニヤしてしまう。

本書では、いろいろな競馬人の清水成駿思い出話とともに、2017年のクラシック予想についても触れられている。これを余計と思うかどうかは分かれるところと思うが、載っている以上、買うなら今だ。それで、ダービーを獲ろうじゃないか。マカヒキに◎を打ってさっそうと去っていった月光仮面の清水はもういない。でも、馬は走る。予想するやつがいる。予想に乗るやつがいて、乗らないやつがいる。ゲートは開き、馬はゴール板を駆け抜ける。できることなら歓喜のなかにいたいものだ。そして、その歓喜を胸にいだいて死んでいきたいものだ。おれはそう思う。