『酒づくりの民族誌』を読む

酒づくりの民族誌

 糖があれば、そしてそこに酵母と適度な湿気と温度があれば酒はできる。酵母は自然状態いくらでもいる。そうだとすれば、糖さえあれば酒はできるというわけである。それゆえ、漿果を集めて、放っておくと酒ができる。果実酒はこのようにして偶然にできたものだというのが、一般的な考え方である。これとよく似た説に、サルが木の又に果実を集めて酒をつくったというサル酒伝説もあるが、もちろんサルが酒をつくるわけもなく、この説は考えなくてよい。

原始仏教に関する本を読んでいて、二千五百年も昔から戒律に「酒を飲むな」というのがあるのはすごいな、と思った。なにがって、酒が、だ。これほどのドラッグを、それも葉っぱやキノコを噛めばトリップできるわけでもないドラッグを、人類はどのようにして発見し、再現し、愛飲してきたのだろうか。

 それでは、人類がはじめて飲んだ酒はどんなものであったのか。私は、いろいろな理由から、果実の口噛み酒ではなかったかと考えている。

というわけで、この著者はこのような見解を示している。農耕と呪術、これが酒の起源ではなかろうか、と。

でもって、あとは、古代より伝わる世界各地の酒を、人類学者や醸造酒の専門家が紹介している。その多くは地産地消というか、商品として出回っているものでもない、その土地であるため、「変な酒を飲みたい」というおれには縁がなかった(旅に出る金がない)。ただ、一種だけアマゾン(無論、ドットコム)で手に入る予定なので、近々それについては書こう。

しかしまあ、古くから伝わる飲食物、それも発酵系なんかについては、ようできたな、と思うことは多い(未読だが『もやしもん』でも読めばいくらかわかるのだろうか)。あとは、毒のあるものをわざわざ毒抜きして食べるに至った経路などだ。

河豚の卵巣の糠漬け - Wikipedia

こんなん、だれがどんな目的ではじめたのか。救荒植物としてヒガンバナの根を毒抜きして……どころじゃない。とはいえ、それこそが人間という特殊な生物のする業なのか、なぁ。