もしあの記者会見にいたら、おれはイチローに何を質問しただろう？

イチローについてあれこれと語るのはむずかしい。あまりにも巨大すぎる存在だからだ。たとえばそれは、競馬ファンとしてディープインパクトを語るのに似ている。将棋ファンだったら羽生善治だろうか。ともかく、それについては置いておく。

イチローの引退記者会見、これである。ニュース番組各社がやきもきし、混乱し、深夜0時頃に始まった記者会見。おれは携帯端末でNHKの配信で見た。あまりに面白かった。このまま「朝まで生イチロー」やってくれよ、とすら思った。イチローという人間は言葉にも才能があるのか、あるいはある種の極みに達した人間には言葉も備わるのか。おれは、「イチロー、喋るの好きだよな」と思ったりしているのだけれど。

で、おれはふと思うのだ。もし、おれがあの場に記者として居合わせて、なにか質問しなくてはならないとしたら、イチローに何を聞いたのだろうか、と。

「それは聞いてほしかった」という質問はあった。たとえば、単刀直入に「今後なにをするのか」など。では、出ていなかった質問では……。

一つ、こんな質問はどうだろう。

「引退を決められた、今、この瞬間、現役生活を振り返って、一番衝撃を受けたピッチャーというと、まず最初に、どの選手を思い浮かべられますか？」

あまり具体的な質問は少なかったように思うが、とりあえず聞いてみたいのはこれだ。いや、おそらく今までの膨大な量のイチローのインタビューやなにかで語られているかもしれないが、昨日の試合の最後の打席をもって、「第一線」との真剣勝負はすべて終わったのだ。

そして、この質問、野球ファンの野球話のネタとして面白いはずだ。たぶん。酒の肴と言ったらなんだけど、「あのピッチャーはなあ……」と語り継がれるはずだ。が、逆質問されると、おれはメジャーリーグなど知らぬので、「の、野茂投手とかどうでしたか……？」とか汗ダラダラになること間違いない。

……まあ、たくさんの対戦相手へのリスペクトから、名前を挙げない可能性がある。あるいは、プロ入りして最初の対戦相手、あるいは、最後の対戦相手。ひょっとしたら話は拡がる。わからんが。

そしてもう一つ、ひどく抽象的すぎて、「ベルギーは赤い悪魔でしたか」よりひどい問いがおれのなかで出てきた。イチローも呆れ返って、レーザービームのような「次の方」を見せるに違いない。思い浮かんだ言葉はこれである。

「野球の神さまはいると思いますか？」