これまでの調べで、熊澤容疑者は「長男は引きこもりがちで、家庭内暴力があった」と供述していますが、その後の調べに対し、およそ１週間前に起きた、川崎市で51歳の男が小学生らを包丁で殺傷した事件を受けて「川崎の事件を見ていて、自分の息子も周りに危害を加えるかもしれないと不安に思った」という趣旨の供述をしていることが捜査関係者への取材でわかりました。
警視庁によりますと、事件直前には長男が近くの小学校で行われていた運動会の音がうるさいと腹を立てたのを父親が注意し、口論になったということで、父親は「周囲に迷惑をかけてはいけないと思った」とも供述しているということです。
引きこもりのお前らよ、うまくやってるか？
こいつは、こいつは残念なことに、うまくやれなかった。
親に、とくに母親との折り合いが悪かったようだ。そのうえ、父親にまで無差別殺人を想起させてしまった。うまくやれなかったんだ。うまくやれば、たぶん、親の介護などという問題を考えなければ、逃げ切れる立場にいた。それをみすみす棒に振ってしまった。ものすごく、もったいない。
おれだったら、おれならば、いくら父なり母なりを恨んでいようとも、その富みを享受し、相続することにかなりの気を配っただろう。どうにかして、引きこもったまま、生きて、死ぬ道を選んだだろう。そこにいくらかの葛藤や、苦痛があったとしても、社会に出る、生活費を稼ぐなんてことに比べたら、どんなにも楽だったことだろうか！ 無駄に打って出るな、籠城戦だ！
……というおれの自己紹介はまだだったか。おれは元ひきこもり、ひきこもりの当事者、だった。おれは大学（大学受験で慶応にストレートで入ったのが、おれの人生のピークだったのだろう）にうんざりして、引きこもった。それは何年か続いた。
思えば、中学受験を控えた小学校でも最後の方は不登校になった。中学受験に備えて、を理由に、だった。しかし、実際のところは人間関係がうまくいかず、孤立しているのに耐えられなかったからだ。高校でも最後には友人の一人も残せず、ともかく、おれという人間は他人から嫌われる能力には長けていて、みなはおれを嫌うし、おれは他人というものが鬱陶しくて仕方なかった。恨みも逆恨みもない、ただただ、おれは人間関係というものに不向きな人間だった。現代社会はおれに不向きなものだったし、おれは現代社会に不向きな人間だった。
だからおれは引きこもった。引きこもって、ファミスタとダビスタと競馬に明け暮れた。明け暮れる、というのはおかしい。おれは昼夜逆転していたからだ。とはいえ、両親との関係が断絶するということはなかった。おれは快活に、よく話した。まるで、おれには欠点がなく、「ひょっとしたらこの子にはなにかしらの才能があるのかもしれない」とすら思わせるほどだった。おれが勝手に思っているだけなのだけれど。
そしておれは、この鎌倉の一軒家の土地があれば、一生働かなくても済むのではないか、などと思っていた。「親が事務次官」などに比べたら、はるかに低く、望み薄だったのだが、そんなふうに日々をごまかしていた。ごまかして、夜になって起き、ネットでエロ画像を漁る毎日だった。おれのなかからカレンダーというものは消えた。
が、その日は来た。親が事業に失敗し、夜逃げのように鎌倉を去ることになった。一家離散、おれは、引きこもる場所を、物理的に、なくした！
これは痛恨事であった。「これがあったから、おれは自立した」などとは口が裂けても言わない。おれは引きこもっていたかった。引きこもって、適当に両親に媚を売り、なんとかなるかな、と思わせて小遣いを引き出し、カレンダーのない日々を送りたかった。本心から、そう思う。
なので、引きこもりの同志よ（あえて同志と言わせてくれ）、下手を打たないでくれ。うっかりしないでくれ。落ち着いて、心安らに日々を送ってくれ。間違っても養ってくれる人の不興を買うな。なにかひどい恨みごとがあっても、おくびにも出すな。安楽に生きながらえる計算をしろ。いいか、資産のある官僚のトップの息子ですら、親に殺されたのだ。慎重にやれ。それしかない。なに？ 死ぬまでの資産はなさそうだ？ それは困った。困ったが、どうしようもない。なんとかやれ、やるしかないんだ。うまくやってくれ。うまくやって、こないだの日曜日のホンコンJCTの丹内みたいにスルスル抜け出して、人生を逃げ切ってくれ。おれに言えるのはそれだけだ。
健闘を。
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