ハードでソフトな『プロジェクトぴあの』(山本弘)を読む

 

プロジェクトぴあの(上) (ハヤカワ文庫JA)

プロジェクトぴあの(上) (ハヤカワ文庫JA)

 
プロジェクトぴあの(下) (ハヤカワ文庫JA)

プロジェクトぴあの(下) (ハヤカワ文庫JA)

 

おれはいくらかSFを読んできたといっていいが、入り口はヴォネガットの『チャンピオンたちの朝食』とP.K.ディックの『ザップ・ガン』であって、日本のSFにはとんと疎い。ネビュラ賞とかヒューゴー賞とかの字面を追って作品を追ってきたばかりであって(ヴォネガットとディックは結局とくべつな存在になったけれど)、SFを俯瞰するということもできない。

して、日本のSF作家というと、超大作『天冥の標』の小川一水と、『戦闘妖精雪風』の神林長平あたりということになる。半村良を入れてよければ、それも入れてくれ。あと、ちょっと野尻抱介。まあ、であるからして、「日本SFの基本を読んでいないじゃないか!」であり、「最新の日本SFを知らないじゃないか!」なのであって、そのあたりは不明を詫びるしかない。

で、山本弘である。おれは名前を薄らぼんやりと知っているばかりであって、作品にあたったことはなかった。興味を持ったのは、この記事を読んだからだった。

「これは "ハードSF作家・山本弘" の遺書だと考えてください。」

https://www.hayakawabooks.com/n/nf9f666619589

おれはいきなり遺書から読むような人間か? 答えはイエス。遺書だから読むのではないけれど、そこまで言うのならば、読んでみたいという思いがある。そこに尽きる。そしておれはハードSFが好きである。ハードSFのどこが好きかといえば、おれは小学校の算数で躓いてもんどりうって起き上がれなかった人間「ゆえに」、おれを好き勝手だまして、翻弄して、知らない世界に連れて行ってくれるからだ。

プロローグ

 

 ようこそ旧人類ども。

 

 これは結城ぴあのの物語だ。ピアノ・ドライブの発明者。史上最高の突然変異的天才。宇宙への道を拓いた者。人類の恩人。世界の変革者。科学の歌姫。最後のアイドル。いくらキャッチコピーを並べても大げさすぎるということはない。それほど偉大な業績を残していったのだ、ぴあのという女性は。

結城ぴあのの物語を読み終えた人は、彼女の旅に乗れた人は、おそらくこの冒頭に必ず戻るものと信じる。そして、ブラウザなり端末なりを立ち上げて、初音ミクの「サイハテ」を聴くだろう。おれはそうした。おれの携帯端末には12時間56分のVOCALOIDの曲が保存されている。

理系男子、理系オタク男子の夢のような話、といえばそうかもしれない。でも、それのどこが悪い。もっとも、おれは高卒文系というなんの能もない人間なのでなんともいえないが。ハードなSFなんだ。おれには結城ぴあのが展開する宇宙論量子力学もまるでわからない。わからないから、信じることができる。騙されようがないのだ。それでは作者にとって手応えがない読者ということになるかもしれないが、そうなのだから仕方ない。

いっぽうで、ソフトな側面がある。作者は意図して、この頃のインターネットやそのミームについて記している。そのあたりは、自分が実際に接していることもあって、なにかむずがゆい感じがしないでもない。が、おれが今まで読んできたハードSFにも、おれんはそうとわからずに、その当時の空気が刻み込まれているのかもしれない。そう思う。それは悪くない。AR、バーチャルアイドルUGC。おれは現にそのような文化に接することができる、そのような世界に生きている。それはひょっとしたら恵まれていることなのかもしれないし、もっと未来に生きていたかったという悔しさなのかもしれない。

とはいえ、なによりソフトなのは秋葉原の風景ではなく、結城ぴあのと語り手、やはり紛れもない人間だろう。人間の関係だろう。人間? 結城ぴあのが人間かというといささかあやしい。そのあやしさ、突き抜け具合にはとても惹かれるところがある。それがどんな存在かは、ともかく本書を読まれたい。そして、願わくは、サイハテまで行き着きますように。

 

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