インタビューで園子温は『ひそひそ星』でデビューしたかったと語った。構想25年の大作である。この場合の大作は、べつにすごい制作費がかかっている、有名人が大勢出ているというわけでもない。むしろ逆である。自主制作映画といってもよい。それでも、作り終えるのが惜しいと監督が語るだけの思い入れがある。
六畳一間のSFである。この六畳一間の、畳敷きの昭和のアパートの宇宙船が実にいい。レトロ・フューチャーというわけでもなく、なんというか、昭和生活感SFというか。
その中に一体のロボット「鈴木洋子」が暮らす。鈴木洋子は配達員である。絶滅危惧種の人間の贈り物を届ける。そういう仕事をしている。しばらくはわからない。
ほぼ全編モノクロである。それが、福島の浪江町などを写す。インタビューで「福島のを撮る風景論と一致した」というが、風景論とかむずかしくてわからない(足立正生もよく使うが)。ただ、その風景がなんとも言えないものになっている。べつに原発と滅びゆく人類というテーマ、なんてものがあるわけでもない。そう読み取ってもいいかもしれないが、そういうものを寄せ付けない感じもする。
すばらしいシーンはいくつもある。砂浜、立つ人々、砂だらけのタバコ屋。影絵で描かれる人間の暮らし……。台詞はすべて「ひそひそ」だ。
正直、眠くならないかというと、眠くなるかもしれないな、と思う。というか、おれは寝てしまった。寝てしまったが、また再生して最後まで見た。見る価値はある。
というわけで、ひさびさに園子温作品を見た。というか、重要な作品(ヒットした作品)とか見てないのいくつもあるな。よし、見るぞ。