こんなまとめを読んだ。
おれの父は広島の生まれで途中から大阪に移って育った。大学で東京に出た。そのまま東京で就職した。
おれの母は横浜の生まれで途中から大阪に移り、高校のころ横浜に戻り、東京で就職した。
結婚したおれの父と母は東京で暮らしたが、父が転勤で札幌に行くことになった。札幌でおれは生まれた。北海道の自然を見てなにかを感じた父は勤めていた会社を辞めた。
しかし、北海道には定住しなかった。そのころ父の父が住んでいた神奈川県鎌倉市の家を増築して、関東に戻ってきた。とうぜんおれも鎌倉についてきたが、まだ物心つく前の乳幼児のころの話であって、おれに札幌の記憶はない。
おれは鎌倉で育った。そして、中高時代は逗子に通った。つるんでいた連中は横浜の南の方から湘南あたりの人間ということになる。そんな中高生が街に遊びに行くというと、「横浜駅」が北限であって、東京都まで行くことはなかった。だいたい大船や藤沢で事足りた。
高校を出て、おれは東京の大学に通うことになった。正確には、最初横浜で、二年から東京だ。実家から通えるので実家から通った。
そしておれは大学を中退して、一家は破産して離散した。おれの行き先は横浜市中区だった。その後、歩ける距離でアパートを一回引っ越した(引っ越し荷物も手で運んだ)、そして今なお横浜市中区にいる。みなとみらいは徒歩圏内。
というわけで、日本の地方の印象を語る前に、自分の土地勘について明らかにしてみたが、明らかに狭い世界でしか生きてこなかった。これで旅好きだとかいうなら見識も広がろうが、生まれつきの出不精であり、友人も金もなく、まあだいたい神奈川県に引きこもって出てこない人間だと思ってくれていい。
それにしてもなんだろうか、札幌市→鎌倉市→横浜市って、わりと全国的に知名度の高い市町村だな。どうでもいいか。
……というわけで、さきのまとめを読んで、青森や熊本の人のことを想像すると、想像するだけになる。おれにはわからん。わからんが、少し興味深くもある。そうか、東北には大都市が存在しないが、西の方には福岡、大阪、名古屋などの選択肢があるのか、などと。
それになんだろうか、やはり北の方に人が少ないのは、少なくない人が言及するように、雪の影響もあるのだろうか。二十一世紀になっても、人間は雪を克服していないといえるのか。
それともあれか、やっぱり日本の中心が京都だった時代があまりにも長かったし、東京からの距離というより京都からの距離で考えたほうがいいのだろうか、などと。思いを馳せすぎだろうか。しかし、そういうところも少しはあるだろう。
で、おれはといえば東京の大学まで通学できる首都圏の人間、関東平野の人間であって、たとえば大学進学時の選択肢は普通に東京に行くものだと思っていたし、自分の中の選択肢に「関東から出る」というものはまったくなかった。北海道で人生が変わった父は、北海道大学や信州大学などを進めてきた覚えもあるが、おれは算数と理科ができないので国立大学は絶対に無理だった。
もしもおれが奇跡的に算数と理科ができるようになって、そういった大学に移り住んでいたら、人生も変わったことだろうとは思う。
また、一家離散のときにどこか遠くへ飛ぶという発想もなかった。これはもういろいろと切羽詰まった状況があって、いろいろな事情があって、鎌倉市からお隣の横浜市に移動したわけである。
もしもおれがそこでよくわからない衝動に駆られて遠くの北の方に行くとか、西の方に行くとかしていたら、人生も変わったことだろうとは思う。
しかしまあ、現実は現実であって、おれは神奈川県以外の暮らしを知らない。この地方の特色というようなものがあるのかどうかもわからないまま生きている。べつにどこかに移りたいとも思わない。東京にはある種の重力を感じるが、ほとんど横浜で事足りてしまうし、べつに物足りないとも思わない。というか、おそらく東京で行きていくだけの生命力もない。
あ、おれがこの文脈でいう東京というときの東京は、漠然とした23区の都会ということであって、町田とか狛江は含まない。
またなにか狭い範囲の話になりつつある。日本の各地方の印象? うーん。おれが生まれた札幌、あるいは北海道。でっかいどう。試される大地。母によると札幌は暮らしにくいと言えるほどでもなかったというが、どうなのだろうか。大学時代に一度行ったことがあるが、普通に都市だなあと思った。夏だったし。目的は競走馬の牧場めぐりだったので、あとは北海道が広いとおぼろげに覚えているだけだ。
東北とか、あまり印象がない。というか、さんざん述べてきたとおり、おれは鎌倉と横浜に引きこもって生きている人間なのであって、知らないのである。言われてみて、「なるほど、東京と札幌の間には仙台しかないのか」と思うくらいだ。それが正しいのかどうかはわからない。
そしてまあ、東京がある。地方の人から見たら首都圏、あるいは関東平野は一つのものに見えることがあるのかもしれないが、やはり東京、大都会は別物だろう。東京のなにがすごいって、すごいから東京なのである。地方競馬だが、大井のほうが府中より都会なのである。
いかん、また狭い範囲の話になる。
さて、おれがこのところ何度か大阪あたりに出かけていることを知っているだろうか。知らない人は今すぐ右のバーにある検索欄から検索してほしい。おれは何度かすばらしい新幹線に乗って思ったことがある。静岡県が長いということだ。それが静岡あたりの印象である。名古屋まで行くと、ようやく名古屋かという感じだ。
名古屋には二十年前くらいに仕事で一回だけ行ったことがある。道がすげえ広くて、すげえ大都市だという印象がある。名古屋城以外に観光名所があるのかは知らない。味噌カツは好きだ。ただ、今と同じくらいの暮らし向きができるとして、名古屋に積極的に住みたいかというと、べつにその理由はないかな、という話になる。
奈良や京都というと、奈良や京都だなという感じであって、どうしても観光地への目線となってしまい、当然そこには暮らしもあるはずだが、いまいち想像はつかない。もし、今と同じくらいの暮らし向きができるとしたら、住んでみてもいいかなと思える。観光公害とか、夏はすごく暑いとか、そういう話もあるだろうが、なんか面白そうではある。そういえばちょっと前に、京都の人が鎌倉を旅行して失望したと書いていたが、しょせん鎌倉は坂東武者が刺したり刺されたりする田舎に過ぎない。
大阪。大阪となると、人々の話すイントネーションの違う東京くらいの規模だろう。横浜の栄えたところと大阪の栄えたところ、要するに駅前あたりを比べてみても、大阪のほうがよほどすごい。横浜市が大都市といっても、人口が多いだけで、その中心地のピークみたいなものは、そんなに高くないといっていい。たぶん名古屋よりずっと低い。東京のベッドタウンにすぎないだろう。
というわけで、大阪はすごいなと思う。そして同時に、東京は無理だなと思うくらいには大阪も都会すぎて無理だな、と思うわけである。都会すぎて無理。あ、おれが想像で比べているのは一番栄えているようなところなので。しかしまあ、なんだろうか、やはり大阪は大阪という磁場が強そうで、そこに今から入り込むのは難しそうである。
あ、こないだ和歌山に行きましたね。和歌山市のあたり。こういってはなんだけれど、これが地方都市、地方の県庁所在地かーと勝手に思ってしまったのだけれど、どうなんでしょうね。正直、町田駅あたりのほうが栄えているでしょう。というか、町田駅あたりって横浜の中心地よりすごくね? あ、また地元の話に引き戻される。いや、母の父は町田に住んでいたもので。それで、今と同じ暮らし向きで和歌山市あたりに住みたいかと言われると、まあいいんじゃないかとか思える。
でも、たとえば、自分が高校生で、これから大学に行くとなると、せめて大阪か京都あたりには出たいと思うんじゃないだろうか。そこで、あるいはいきなり東京まで考えに入るのだろうか。よくわからない。
さて、そこから西というと、もう未知の世界である。あ、おれはさんざん広島カープのことを語っているけど、広島県に入ったことありません。いつか広島市民球場に巡礼を、と思いながらも、とっくの昔になくなってしまったし。
というわけで、広島の規模とかもやはり想像がつかない。岡山もわからない。わからん。
さらに、九州というものがあって、九州には修学旅行で行ったことがあるけれど、何十年も昔だし、べつに自由にうろついたわけでもないのでなんとも言えない。というか、「九州に行ったことがある」というのもあまりにもいい加減なくくりではないか。とはいえ、神奈川県にひきこもって生きてきた人間の印象とはこのようなものである。あ、仕事柄というか、おそらく正確でもないので「解像度」とは言いません。というか、九州のどこに行ったんだ。福岡とか行ってないと思う。阿蘇山に行ったような気がする。帰りはフェリーだった。
沖縄というともう、遠すぎてまったく想像がつかない。いや、沖縄のイメージというものはあるが、なんというか、外国と同じように、自分が一生行くこともないのだろうな、という遠さがある。北海道生まれだしな。
と、なんとなく太平洋側の話ばかりになってしまった。正直、ほんのわずか、少しばかり長野県に行ったことがあるというだけで、もう日本海側は知らないんだな。なんかもう、ぼやけている。すみません。
でも、記憶を絞り出すと、小学生のころ、家族旅行で能登半島まで行った覚えはある。しかし、夏休みのことなので、雪のころとかはぜんぜん知らない。輪島の朝市くらいしか覚えていない。
もう、時間なので終わりにするが、なんかこう、なんだね、おれは世界が狭いね。そしてやはり、首都圏の人間だなというか、こう、よほどのきっかけがなければ、意識して「ここから出たい」とは思わないというか。いや、都会の人が田舎暮らしを志向することは普通なんだけれど、なんというか、そういう余裕もなく生きている人間としては。それにこう、なんだろうか、神奈川くらいだと自然がないわけでもないし、海もあるしな。
で、当たり前の話かもしれないが、やはり地理的に遠いとよくわからんな。遠くても縁があれば少しはわかるが、点でしかない。線と面は意識できない。
ああ、しかし、たとえば手元に2970億円あったら、どこに引っ越すだろうか。それだけ金があれば東京のど真ん中で暮らしてみるのも一興だろう。やはり東京にはひかれる。そうでなければ、鎌倉というか、湘南のどこか、海の近くに豪邸かな。千葉とかもいいという話もある。しかし、想像がつかんな、関東から離れるということが。つーか、2970億円という設定がよくないな。それだけ金があれば、無敵の家を建ててしまえるだろう。それでもう、引きこもっちまうからな、どの地方もあったもんじゃないな。
というか、今後おれはどこかに引っ越すことがあるのだろうか。死ぬまで今のアパートに一人暮らしして、ひたすらに関内と関外をずったらずったら歩いているような気がする。行動範囲の北限は野毛の図書館。そんな感じが、大いにする。