人生のよかったことを思い出せるようになったら、終わりは近い。

寄稿いたしました。

 

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おれは自分の人生の主人公ですか? そんなことはわからん。わからないけれど、おれには文章にできる言葉があって、言葉にできる意思がある。言葉が先立って意思があとにあるという考え方もあるが、まあそれは置いておく。そういう意味で、おれはおれの人生の主人公であって、おれは世界の主人公だといえる……かもしれない。

 

しかしなんだろうね、上の記事でおれはこんなことを書いた。

 

考えてみれば、好きな人といい関係にもなれたし、憧れのミュージシャンの演奏を生で聴くこともできたし、すばらしい芸術作品をこの目で見ることもできた。すばらしいアニメのイベントに行ってすばらしい声優さんのパフォーマンスも見たし、総火演で戦車の砲音も耳にした。及川サトルの実況を現地で聞きながら、トーシンブリザードが大記録を達成するのに立ち会った。もう十分だ。やり残したことはない。

 

まあ、よかったこともあった。悪いことはその十倍思い出せるとしても、現状がその百倍悪いとしても、もうなんだろうか、やるべきことはやったように思える。ほかになにがある? 

 

というか、こうやってよかったことを思い返せるってのは、もうなにか、人生の終わりも近い感じがする。小学生のころは「今に見ておれ」と、学年一番のちびでいじめられっ子が成り上がりを夢見ていた。小学生のころが一番なにか燃えているところがあった。そういう鬱屈したものが形を変えつつ生きてきた。それはほんのつい最近まで、たしかにあった。

 

が、なんか気がついたら、なくなっていた。そういうところがある。なくそうとしたつもりもなければ、抱えて生きると思っていたわけでもない。ただ、なんか気づいたらなくなっていた。

 

100%そうなった、とはいわない。ただ、51:49でもなんでもいいが、人生の不遇、不運、自分の無力、無能、世の中への呪いよりも、「まあ、おれにもいいことはあったし、やり残したことはないな」という思いのほうがある。

 

べつに幸せになったなにかがあったわけでもないし、貧乏や精神障害や先行きのなさが解消したわけでもない。なんにもない。ただ、なんか気づいただけだ。もういいか、悪くなかったな、と。

 

まあ、先は暗い。収入も大卒新入社員以下でボーナスもない。会社も長く続かない。親類縁者に縁もない。宝くじくらいしかないんだよ。だからこの先、悪くなる一方だ。それはもう認めざるをえない。双極性障害も良化するどころか、肉体の衰えによって無理がきかなくなることも多くなった。

 

それでも、おそらく、いまが、人生で一番、自由で、気が楽な状態だ。少なくとも、毎月決まったお賃金がもらえる。そうなったのはここ数年のことで、それまでは家賃の5万円だけ、という月も少なくなかった。それに比べたら、なんと充実した日々を送れているのだろう。

 

そしてもう、おれには黄金のニート時代にはなかった、思い出がある。よかったなと思えることがある。もう、それを抱えていれば、十分じゃないのか。

 

というわけで、今、すすんで死ぬ気もないし、今がこのまま続けばいいくらいの気持ちになっている。ひょっとして、社会人になって、お金を稼げるようになったくらいのメンタリティと、人生の終わりが見えてきた老いの目覚めが同時にきているのかもしれない。

 

言うまでもないが、おれには家庭がない。子供もいない。先を考える必要などなにもない。これから情況がどんどん悪くなって、仕事も収入もなくなって、ホームレスになって、そうなったら、それはそれでもう終わりにしてもいいだろう。希死念慮はいつだってあったけれど、それとは違う覚悟があるような気がする。もちろん、いざそうなったら、ひどい醜態や執着を晒すことになるかもしれない。その可能性もある。でも、一方で、よかったこともあったから、もういいか、とあっさりいける感じもしている。見るべき程の事をば見つ。

 

だからなんだろう、こんなおれが、人生のよかったことを思い出せるようになったというのは、もう終わりが近いからだ。老いとはそういうものかもしれない。そんなふうに感じる。なんか書いていてとりとめのない話なのはわかっている。明日になれば、またべつの感情に支配されているかもしれない。

 

ただ、なんかこのごろは、どうもそんな感じで、日に日に丸くなって、そのまま消えてしまうような、そんな感じなんだ。酒の量を減らしたからかな。それとも、ちょこざっぷで少し筋肉つけたからかな。わかんないな。

 

だからなんだ、おれの呪詛が好きな人は、もっとべつの、赤黒く煮えたぎっているもうちょっと若い人を探してくれ。もうここは、おれの仮初めの日常と、思い出話をする場所だ。福寿いこいの部屋だ。さあ、みんな帰ってくれ。おれは健康にいいお酢の炭酸水割りを飲む。まちがっても、おれに火をつけようと、スコッチなんか贈るんじゃないぞ。