「お笑い」の記事を書いたので、松本人志の件に触れる

寄稿いたしました。

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S-1で気になった「おもしろいってなんだろう?」ということを、二冊本を読んで勉強しました。「ベルクソンくらいしか読んだことない」という人も、ぜひ古代から現代までの「笑い」の歴史を概観できるかと思います。あと、ヴィーチの「正常逸脱理論」とか「現代の優越説」を実際の芸人のネタに当てはめてみるとおもしろいかと思います。

 

 

 

松本人志の話をします

で、松本人志の件なんだが。おれはこの件について、ネットで二回くらいしか言及していないと思う。Xで一回、ビートたけしの発言を引用する形で一回、たぶんそんなところ。

 

最初、おれの頭の中には草津事件のことがあった。文春で一本記事が出て、それだけで総たたきが始まって、いやちょっと待て、と。おれは草津の件でも言及をほとんど控えていたと思うが、裁判になるなら裁判でなにかが決まるまで待とう。そういうところがある。日和見主義とか、それはどちらか一方を利する行為だと言われても、意に介さない。言うときは言うし、沈黙するときは沈黙する。やりたいようにやる。

 

……とか、思っていたんだけど、松本人志の件、これがぜんぜん収まりそうもない。松本と吉本のちょっと食い違った対応、休業、次々に出てくる文春やフライデーの追撃、高額の民事訴訟……。なんかもう、ちょっとこれはどうにも、という。

 

というわけで、まあ裁判で争われることは争われることとして、松本人志が、後輩芸人を使って、素人女性集めをさせて、性的行為をしていたんじゃないのかな、というのは事実ではないかな、とは思っている。性的行為の中身、それがすなわち「性加害」と呼べるかどうかは、自分のそういう分野への無知から言い切りはしない。「性加害」というのが刑事罰を伴うようなものに限られるのであれば、それは民事であろうと裁判次第。そうでなく、もっと広い範囲を指すのだとするならば、「性加害的なことはあったかもしれない」となるが、今のところ松本側の意見も具体的に出ていないので、その「しれない」だけで斧を投げるのは控える。

 

そしてこんな想像もまたしてもしょうがないことだろうが、あれなんだろうな、若い男、若い芸人が女遊びする、それに夢中になる。ワーキャーしてくれるファンとか簡単に手に入ってしまう。その延長線に権威となった松本人志の件があって、松本自身はファンの素人を普通に食ってるだけという意識だったんじゃないのかな。自身の年齢も高くなり、芸能界的、社会的立場も高くなり、それでも意識だけは若いころとたいして変わっていない。若い頃と同じつもりで遊んでいる。

 

……とはいえ、けっこう若い頃から、後輩にナンパさせていたとかエピソードトーク語られていたらしいから、気づいたら周りがお膳立てしていた、というわけでもねえか。若い頃から成功していたし、若い頃からそうだったか。そうなると、なんなんだろうね。いずれにせよ、自分の権力を誇示するために女性を利用したというより、先にあるのは「やりたい女とやりたい」というあけすけな欲望のような気がするけれど、それはもう精神分析の世界かもしれない。

 

いずれにせよ、この件はテレビ芸能人松本人志の負けということになるだろう。ジャニーズの件もあって、たとえ民事裁判でどういう結果になろうとも(いや、万が一文春側の捏造が100%だったとか証明されたりしたら別だけど、それはないだろう)、もうテレビじゃ見られなくなるんじゃないだろうか。

 

引退、するのかもしれない。もちろん、今どきはネット配信もあるし、舞台に立ったっていい。しかし、たとえばAmazonのコンプライアンスはどうなのか。実のところ、おれは報道があった直後、「ドキュメンタルの配信が終わるかもしれない」と思って、徹夜で芸人コンビ大会を見た。もうドキュメンタルは下ネタに走るばかりでおもしろくなくなっているが、やはり最後になるかもしれないなら、見ておかなければと思った。あ、ドキュメンタルの芸人コンビ大会は、EXITのりんたろー。の自爆からのガチすぎる凹み方が本当に悲惨なのと、飛び抜けてベテランだったフットボールアワーが一番準備してきて、本ネタまでやって頑張っていたのが印象的でした。

 

で、時間がないので後回しになったし、最後まで書けないと思うけれど、おれにとって松本人志は、ダウンタウンは何者だったかということも書いておこう。

 

それはもう、特別な芸人だと思っている。はじめてみたのは「夢で逢えたら」だったと思うが、それはちょっとまだ小学生がたまの夜更かしで見ていたもので、記憶も曖昧だ。あとから「ダウンタウンとウッチャンナンチャンが一緒に番組やっていたのはすごいな」と思うくらいだ。

 

というわけで、関東民おれは大阪時代のダウンタウンを知らない。というか、「漫才師」ダウンタウンとして、漫才のネタを見たかどうかも覚えていない。おれにとって圧倒的だったのは「ごっつええ感じ」のコントだった。そのシュールな世界は一瞬のあいだ、嫌な小学校の生活を忘れさせてくれるくらいの面白さだった。むちゃくちゃ笑った。最強の番組だった。

 

が、「ごっつええ感じ」は突如として終わってしまった。裏事情は知らないが、世間で知られている「プロ野球中継延長の連絡がいかなかった不手際」が理由だとすれば、こんなにもったいない話はないと思った。

 

その後のダウンタウン。どうだったろうか。面白い存在には違いなかった。間違いない。ただ、トーク番組とかはあまり見なかった。「ダウンタウンDX」とかは見たことがない。松本がやることと言ったら、たとえばこれ、かなり嫌う人も多いだろうが、「働くおっさん劇場」なんかでかなり笑った。「すべらない話」も最初は見ていたように思うが、なんか大仰になっていって見なくなった。酒を飲むやつは見たことがない。

 

「水曜日のダウンタウン」は、これ、ちょくちょく見るようになったのは実のところ最近のことだ。なぜかはわからない。攻めた番組だということに気づいていなかった。「ガキの使い」も昔はちゃんと見ていた。ただ、オープニングトークがなくなって、どうにもマンネリ感が出てきて見なくなっていた。思えば、おれにとってのダウンタウンの漫才的な部分は、あのオープニングトークだったか。

 

いずれにせよ、おれのなかで「笑いの頂点はダウンタウンだよな」という思いはずっとある。そして、松本人志がM-1をはじめとした賞レースの審査員長的な立場にあることも納得だった。それだけの格があると思っていた。なにせ、いまだに松本人志はおもしろい。水ダウとかの短いコメントとかでも外さない。レジェンドにして現役最強プレイヤー。いや、何回かやったコント番組はちょっとというか、かなり期待外れだったけど。

 

うーん、なんだろうね、松本信者なんかね、おれは。まあ子供のころからのすりこみというのは強いし、「ごっつ」はそれだけ面白かった。

 

それが、こんなんになってしまった。果たして、ビートたけしの言う通り、とっとと会見を開いて、謝ってみせたほうがよかったのか。そして、運に任せてみたほうがよかったのか。よくわからない。長引くであろう裁判と休業、おそらくは実質的なテレビ引退。これについて、「ごっつ」が終わったときのような残念さがないというと嘘になる。嘘になるが、「IPPONグランプリのチェアマン代役がバカリズム」というニュースを見て、「まあそれはありかな」とか思ったりして、M-1もなにも松本人志抜きで回っていくようになるのかな、とか感じ始めている。まあ、小さなころ、全盛期のダウンタウンを見られたので、もうおれはいいかな、と。そして、もっと若い人にはそれぞれのカリスマ的存在がいるのだろうし、そうやっていろいろな価値観とともに世代は変わっていくことだろう。

 

……って、価値観いうても、文春の最初の記事、10年前に出てもどうだったろうか。スポンサーが手を引いたり、世間からもダセえってドン引きされた可能性もある。そのあたりはよくわからない。

 

とりあえず、以上。