三寒四温サンサシオン

 

おれはわりと待ち行く人の服装を気にするタイプである。「流行のファッションを気にしているの?」。違う、違う、どれだけ厚着をしているか、薄着をしているか、だ。「自分だけむちゃくちゃ厚着だったらどうしよう?」、「薄着すぎたらどうしよう?」。恥ずかしいのはいやだ。ちなみに、「外で靴を履いていない夢」とか「服を着ていない夢」(性的な意味はないです)をよく見る。

 

して、このくらいの季節も困ったものだ。一年中そうだといえばそうなのだが、日中室内で仕事していて、外に出るのは行き帰りと昼のコンビニくらい。行き帰りとなると朝と夜でわりと気温は低い。自転車なんか乗っていると、風が冷たいので手袋くらいほしくなる。室内、おれの職場もアパートも安普請で、夏暑くて、冬寒い。ボロボロだ。なので、「そろそろ春の気配が……」といっても肌寒いこともある。足の冷え症も完全におさまった気もしない。

 

ところが、この前の週末はどうだったろうか。急に暖かくなった。土曜日は昼頃ちょこざっぷに出かけたが、半袖のウェアの上にジャージ一枚、これで十分だった。なんならTシャツ一枚でもいいくらいでは? という陽気で、少し面食らった。ちょっと前までは、長袖ウェアの上にジャージ着て、さらにダウンジャケットみたいな格好で行っていたぞ。二週間前とか。

 

こういうとき、すぐに半袖モードになれる人とかいて、ちょっと尊敬する。「夕方寒くなったらどうしよう」とか、そんな気弱なことを考えない。器がでかい。とくに白人の人は早いような気がするが、ひょっとしたら極寒のカナダから来た人かもしれない。そのあたりは人種差があるのかどうかよくしらない。

 

して、土曜と日曜はエアコンも使わずに過ごした。ただ、ちょっと薄着でいたら夜はすこし寒くなった。そんなものだろう。馬券の調子はよくて、ステイフーリッシュの妹二頭が同じ枠に入ったレースがあって、馬券はマラキナイアから買ったが、一応大スランプのラリュエルの単勝を買ったら五千円ついたりした。ろくに予想せずにムルザバエフ買ったら来るし、珍しくメーンの重賞、ファルコンステークスは先行馬が穴を開けるというのでミルファームのオーキッドロマンスから買ったら馬連が当たる。日曜の中京メーンもテーオー丼が的中して上機嫌。中山で単勝万馬券のアルジェンタージョがワイドで突っ込んできてくれたのもよかった。土曜、日曜と勝ち切ることができた。

 

日曜は将棋もあって、NHK杯は決勝。これは録画で見たのだが、中盤から終盤に二転三転する面白い展開。早送りなんてまったくできない。最後、ほぼ佐々木勇気八段の勝勢となったところで、藤井竜王名人が歩を打つ、金をかわす、歩を成り込む、金で取る……を、こわれたファミコン将棋のように繰り返した。むろん、壊れたわけではない。その時間を使って必死に読んでいるのだ。まだ諦めていない。むろん、解説の羽生九段も言っていたが、これで佐々木八段のほうも「相手が読めていない」とわかるし、インタビューでも勝てそうと思ったのはそのときだと言っていた。

 

しかし、それにしてもこの勝ちにこだわる姿よ。たぶん、棋士によってはやらないだろう。永瀬九段がやるならわかる……というとなんだが、藤井聡太、八冠の絶対王者にしてまだ目の前の一つの勝利にこれだけやれることをやる。たとえ棋譜が汚れたといわれようがかまわない。そこにしびれた。ちょっと次元が違う存在でありながら、そこまで勝利を求める。これがなかったら、八冠でもなかったのではないか。

 

で、その八冠維持がかかった棋王戦。伊藤匠七段を退ける。気づいたら素人目にも、伊藤七段がどこから手を付けたらいいのかまったくわからないような局面になっていて、必死の反撃も辛い手で遠ざける。金矢倉の向こうの藤井玉が、さらに穴熊状態になったあの遠さは絶望的だった。人間には選びにくい玉頭への角打ち(AI最善手)とかして決めにくるし、なんというか、まったく。

 

そんなんで、土日が終わって月曜日。天気予報では「体感で十度下がります」みたいなことを言っていた。さあ、どうする、なにを着る? まったくわからない。わからないが、おれはこういうとき、安全策を取る。この場合は厚着を選ぶ。完全に真冬の服装とまではいかないまでも、まだヒートテックのタイツを履く。ただ、上の方のアンダーシャツは半袖で……とか、なんとも中途半端。でもまあ、そのくらいで正解だった。

 

しかしなんだろうな、暑くて汗をかくのはいやなのに、どうも寒さに対する怖さが強い。年々そうなっている。歳を取るというのはそういうことかと一人で納得する。