こちらの記事を読むまで、すっかり忘れていた。
おれはこの漫画が載ると知って、「コミックビーム」を買ったくらいなのに、そのあと続かなかった。おれにはもう漫画雑誌を買うという習慣がなくなってしまったのだ。
とはいえ、単行本が出たら買うぜ。紙の本を買うぜ、買ったぜ。そして読んだ。
すばらしい。
解説の巖谷國士も言っているが、澁澤龍彦の小説の登場人物はあんまり感情や心情のじくじくしたものを出してこない。カラッとしている。そして、たとえば薬子に対する思いも、石というオブジェになって描かれる。
そのあたりを近藤ようこはカリッと漫画にしていて、非常によいことこのうえない。そして、奔放にしてなおかつどこかしらに典拠があるであろう澁澤の想像を、きちんと丁寧に、飄々と、絵にしている。儒艮を見るがいい。そして、薬子や陳家蘭のエロティシズムもきちんとエロなのだ。ああ、いいよな、と思うのだ。この漫画家をして『高丘親王航海記』が漫画になるということは、実に素敵なことなのだ。
それでもって、おれが原作で好きなシーンである、大蟻食い登場のシーンなんかも実にいいな。
それならわたしもあえてアナクロニズムの非を犯す覚悟で申し上げますが
そもそも大蟻食いという生きものは
いまから約六百年後
コロンブスの船がいきついた
新大陸とやらで
初めて発見されるべき
生きものです
おれは原作で初めてこれを読んだとき、「フハッ」となった。いったいこの作品世界はなんなのか。そこをさらっと揺さぶってくる。澁澤龍彦ワールドだ。『高丘親王航海記』は澁澤龍彦の集大成といってもいい作品であって、「空飛ぶ大納言」もプリニウスもみんなぶちこまれているような話だ。
そう、話だ。「小説」といっていいのかどうかおれにはわからない。近代小説だか現代小説だかわからないが、そういったジャンルをひらりと飛び越えたところに『高丘親王航海記』はある。おれが愛してやまない作品の一つであって、あまり小説の再読をしないおれが何度も開いた本である。おれはきっと、この漫画版も何度も開くことになるだろう。はやく続きを読ませてくれ。
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おれの好きな『死者の書』も漫画にしている。たぶん読んだような気がするのだが、日記に感想文を見つけられなかった。
……この原作は読んで打ちのめされるようなものであって、これも近藤ようこが漫画化していると知った。もっと近藤ようこを読むべきかもしれない。