格安大豪邸
格安大豪邸。大豪邸が、格安なのだろう。……と、それで済ませていいのか。おれの頭は固まってしまう。豪邸の上をいく大豪邸が「格安」でいいのか。酒の宅配ショップじゃないんだ。大豪邸じゃないか。豪邸とはなにか。たんにでかい家じゃないはずだ。外観にも中身にもそれなりの格があるはずだ。大豪邸となれば、贅を尽くしてこその大豪邸。それの「格」が安いというのはいかがなものか。とはいえ、不動産屋にとってみれば、「これくらいの家をこの価格で売る!」という思いもあるはずだ。あるいは、苦しみ抜いての価格かもしれない。そこで血を吐くように出た言葉が「格安」かもしれぬ。とはいえ、やはりなにかこう、大豪邸なのに格安? などと外気と変わらぬ寒い安アパートぐらしのおれに思われてしまう。もし大豪邸を求めている人間がいたとして「格安大豪邸」を見てみたいと思うのだろうか。おれにはよくわからぬ。「お値打ち大豪邸」、「お手頃大豪邸」などと代案を考えてみてもしっくりこない。「大豪邸がこの価格で?」、「訳あり大豪邸」、「じぇじぇじぇ大豪邸」、「おもてなし大豪邸」、「大豪邸、買うなら今でしょ!」、「倍返しだ!」(何を?)。
そこに店を出してはいけない
おれの帰り道の路地、しょっちゅう飲食店が入っては出て行く店舗がある。年の瀬またあらたに居抜きというのか、店がオープンした。今年で三店目じゃないのか。もちろん、飲食店なのだから、中身も大切だろうが、ここはさすがに立地が悪いんじゃないのか。そう思わざるをえない。たとえば、結構な有名料理人が開いた隠れ家的な店だとか、そこを目的に、というような店ならいいだろう。あらかじめ、その店が目的となるようなものであるならば。でも、この道、あんま人通らないじゃん。一昼夜電信柱の陰にでも隠れて、どういう感じの人間がどれだけ通るか調べてみればいいじゃないか。おれは銭金のことに疎いから新しい料理屋の出店にどのくらいの金が必要なのか、自己資本はどのくらいで、どのくらい借金するのかなどよくしらぬが……。たしかに駅から遠すぎるわけでもない。元町というそれなりの人間が訪れる場所も遠くない。でも、そこはちょっとどうなんだ。とはいえ、会社近くで似たような店舗があって、いいテンポで店が入れ替わっていたが、今入ってるところはわりと長く定着している。なにがあるかはわからない。料理人などはそれに賭けたくなるものなのだろうか。あの新しい店、いつまで持つか、おれは横を通り過ぎるだけ。
冷凍食品のエース
一昨日だったか行きつけのスーパーに行ったら、正月の用意をしていた。開店時間中にやっているのだから、残業などさせない方針なのだろうか(以前、財布を落としたさい、閉店直後の店に行ったらあっという間に人がいなくなっていたということもあった)。冷凍食品の入ったケースの上に板を置き、紅白の布を敷き、伊達巻などを並べはじめていたのだ。その間、上に板を置かれた冷凍食品は凍りついているほかない。だが、一角だけ隙間があって、何品かの商品が積み重ねられていた。冷凍うどん、冷凍ギョウザ、冷凍シュウマイ、冷凍コーン、冷凍ミックスベジタブル。そんなところか。そして、こいつらがエースなのか、と思った。ほかの連中は年末年始に暇を出されるが、こいつらは売れつづけると、そう見られている。たいしたものだ。どこか誇らしげに見える。おれはその中から冷凍コーンを選んでかごに入れた。お好み焼きに冷凍うどんは入れない。少なくともおれはそうなんだが。