トンネルの中は鳩の死骸でいっぱいだ

中村川黒海艦隊が通り過ぎて行くのを見た。まさに勇壮の眺め、ロケットが発射された! 一瞬で消し飛ぶ中村橋。ここは横浜というよりクリミア、クリミアというより関内、関内というより関外、寿町にカジノを誘致しよう! 足のついた暴力装置をノックアウトしよう! 死ぬのはすべての弱い犬、やつらは人間にしっぽを振って、振りきれるまで振って、狡猾さってやつがないんだ。猫とは違う、哀れな連中だ。見るがいい、セヴァストーポリには一匹の野良猫も残っちゃいない。やつらわかってるんだ、グスタフ列車砲の的になってんのがわかってるんだ。鳩ときたらもっと馬鹿だ。トンネルの中で車にぶつかっちゃ死にやがる。トンネルの中は鳩の死骸でいっぱいだ。やつら死ぬってことを知らないんだ。そりゃ犬だって、猫だって、知っちゃいないさ。ひょっとしたら、おれだって知らないさ。鈴木正三が出てきて、死にならえって一喝して、どこにならうんだって具合で、そういえばおれ、背の順じゃずっと一番前だったから前にならわなかったよなって思うんだ。前にならう癖が小さいころにつかなかったもんだから、腰に手ぇあててふんぞり返る人間になっちまった。ふんぞり返るだけで、中身が伴ってないからしょうもねえんだ。さっき100円ローソンで寿町のじいさんが、石焼き芋買うのに、一番上のが熱いのか、一番下のが熱いのか店員のおばちゃんに聞いてたんだけど、おばちゃんいわく「焼きたてですから全部一緒です!」だってさ。それで、容器の中の地獄が開いて、一番上のが手渡されたんだ。それで、おれ、焼き芋の温まり方とか冷め方について10秒とか15秒考えるんだけど、まったく思考の手がかりに小指一本ひっかけることできねえんだ、本当の話。頭のなかに精神的不安様が陣取ってて、薬が抑えつけてるんだけど、あとは些事が占領してんだ。FAXで送られてきた二階調の線画イラストをライブペイントまでもってくのに、上からマジックでなぞるよりPhotoshopの水彩フィルタあたりで一発試してみてもいいとか、そんなことだ。そんなことは、それでもあっという間に頭ん中から飛び出ていっちまって、気づいたら黒海艦隊が出航してんだ。政治ってやつは恐ろしい。外交となるとなおさらだ。そいつらの前だと、おれらなんてのは鳩より馬鹿なんじゃねえかと思わさられる。もっとも、政治や外交が鳩より賢い連中がやってるもんであってはほしいんだけどさ。それだ、人ん家の庭にウメが咲いてるの見てみぬふりして、いずれサクラもやり過ごして、葉桜のころまで生きていたらおなぐさみってもんだ。