そこは永遠に引きのばされた夏の一瞬だった。だれも物言わぬ世界でおれは言葉のガムをひとり噛んでいた。晴れているのにボタボタと雨粒が落ちてきた。おれの自転車は屋根の下にあって濡れていない。おれは自転車を濡らさない。
ジャクソンだったか、ヘーゲンスだったか、ネーム・プレートをつけた外国人がタブレット端末片手に神の存在を伝えにきた。
「まず、その髭と髪型をやめるべきだと思うんだけれど」
おれはその言葉を飲み込んだ。言葉のガムを飲み込んでしまった。
ジョンソンだったか、プライディだったか、ネーム・プレートをつけた外国人はタブレット端末にバタ臭い画像を表示して、おれになにか伝えようとしていた。
おれはといえば、飲み込んでしまったガムが胃の中のひどい異物になってしまって、どうにかなりそうだった。吐き出そうにも吐き出せず、このまま胃の壁と壁をくっつけてしまい、おれはもうなにも食えなくなるんじゃないかって不安になってた。
「それで、そいつが『光あれ』って言ったのをだれが見てたんだ?」
おれはそう言い放った。とたんに世界は生まれた。見上げれば太陽があり、見下ろせば大地があった。彼方を見れば海が広がっていた。そして、数えきれぬほどの生き物たちで満たされた。あらゆる生き物はそうであるようにあって、調和が保たれていた。
おれは満足して、胃の中の異物のことなんか忘れてしまったふりをして、濡れたアスファルトの道を歩いた。日射しが強いのにボタボタ雨粒は落ちつづいた。どこもかしこもビルと駐車場、更地はあっという間に建物に変わる。おれは渇いた喉をなにで潤そうか、そればかり考えていた。