閃光の福地

 野球と関係ない話から書く。卓球選手の福原愛といえば、日本中の注目を浴びた選手だ。しかし、対戦相手の名前を見て、私は絶句してしまった。「ミャオミャオなんて、萌えを狙いすぎた名前じゃないのか?」そういう疑問が頭を過ぎったのである。ミャオミャオは中国から夜行列車に乗ってオーストラリアに行き、代表まで上り詰めた叩き上げである。その意思に、私は集団就職で故郷を後にした金の卵たちのことを思い浮かべてしまう。ところが、たかが名前の響きだけで萌えなどと言われてしまうのだ。出世に燃えるのと、萌えられるのでは、漢字一字の違いで火星と木星くらい違いがある。
 横浜に吉見という投手がいる。また、彼も似た危険を有する男だ。もしも彼が「良美」という名の女性を伴侶として選んだらどうなると思いますか? 萌える名前どころか、できそこないの富野キャラみたいになってしまう。そして、そんな危険な男にとって、いつまでも若手扱いのぬるま湯に漬かったカープの選手なんて、物の数じゃないんだなぁ。
 そんなカープの選手にも、一人野武士のような男がいた。韋駄天の異名を持つ福地寿樹である。福地は足の速さだけでは天才イチローをしのぐとも言われる男だ。もし、最終打席、福地がノーヒットノーランを阻止したかったらどうすると思いますか?緊張している内野にこつんとバントを転がせばいい。ところがこの男、フルスイングしたのである。その姿を見て、私は腰を抜かすほど驚いた。福地はこう思ったに違いない。「今季二度目のノーヒッターはたしかに不名誉だ。だが、その結果カープ首脳も、若手を出せば何でも解決すると思ってるファンも本当の危機に気が付くだろう」と。それを見抜いたガンダム世代の私は体がしびれてしまう。この男、まさに『閃光のハサウェイ』じゃありませんか。
 ところが、男の人生とはわからないものである。非力な福地が派手な討ち死にをしようと振り抜いた打球は、無情にも古木外野手のグラブすりぬけ、エンタイトルツーベースになってしまったのだ。カープを殺そうとした必殺の一撃が、勢い余って吉見の夢を叩き潰したのである。男の夢舞台として、広島市民球場は狭すぎるというのか。