俺だってサッカーの日本代表戦くらい気になるさ

 さあ「絶対に負けられない戦い」の始まりです。特に普段サッカーを見ていない私だって、ちょっとくらいは気に掛かるものですよ。それに、初戦の相手は北朝鮮テレビブロスのサッカーコラムで「普段は自国の足を引っ張ることが多い日本のマスコミも、今回は過剰報道でうまく相手の足を引っ張っている」みたいなことを書いていたけれど、そんな過剰な情報もなかなかに興味深いものなのです。というか、ピッチ上の戦術や個々の選手のプレースタイルなんて、あまり詳しくは知りませんからね。
 そんな報道の中によく出てきたのが元北朝鮮の代表監督。対外試合十年禁止の原因になったせいなのか分かりませんが、今は脱北して韓国にいる人です。いくつも日本のマスコミのインタビューに答えていたみたいですけれど、その中で印象的なシーンが一つありました。かつて自分が作り上げたチームの試合映像をビデオで観ながら「この14番はとても速かったんだ。とても強かったんだよ。これが私のチームだ……」とつぶやいたのです。おそらく彼は故国で厳しい立場に立たされ、国を捨てざるを得なかったのでしょう。それでも、自ら作り上げたチーム、作品に対して捨てられない想い。これは監督という立場にある人間にしかわからない感傷なのかもしれません。この先どうなるかわかりませんが、ジーコは自らの日本代表を回顧して何と言うのでしょうか。それが明るい話であればいいのですが。
 もう一つ気になったのは北朝鮮代表の宿泊先です。どうも私のような小人物となりますと、「移動のバスから日本の高層化されたビル群に腰を抜かすんじゃないか」などとちょっといじわるに思ったりするものですが、彼ら自身から高級ホテルを指定してきた(http://www.yomiuri.co.jp/hochi/soccer/jan/o20050111_10.htm)のだから驚いたものです。よく、アウェーの洗礼などと言って、良くない宿泊施設に押し込んで嫌がらせをする、なんて話が諸外国にはあるようですが、北朝鮮の選手にとってこれは逆効果じゃないでしょうかね。普段の暮らしとのあまりの差に、それこそ腰を抜かすんじゃないかと。いくら「偉大なる将軍様の御厚意によって高級ホテルが用意されたのだ」と言ったところで、目の前の物が言葉より圧倒的なのは確かでしょう。もし私が受験生で、試験前日に五万五千円のホテルが用意されたらどうなると思いますか。緊張のあまりテストなんか受けられないでしょう。
 そういえば、そんなホテルでもテレビは撤去されていたと今朝のワイドショーは報じていました。別に北朝鮮を批判する内容の番組をおそれたわけではなく、やはり物、物、物に溢れている日本の豊かさを見せないがためでしょう。とりわけ、在日朝鮮人Jリーガーの片方の人の実家が映ったりしたら大変です。それはもうえらい豪邸にお住まいのご樣子で、私が五回生まれ変わって働いた金を足しても、ああいう暮らしはできないと思いました。もし、あんなもの見せられた日には、チーム内の輪も壊れてしまうんじゃないでしょうか。
 ここまで書いてきてちょっと反省したいのですが、ちょっと北朝鮮代表を、いや、アスリートをバカにしすぎたかな、と。ひとたびピッチに立てば経済格差もクソもなく、あるのはただゲームのみ。ひょっとしてそういうものかもしれません。
 さて、肝心の試合の行方。どうもネットなどを見るに「マスコミは謎のチームとか騒ぎすぎるけど、大したことはない」という意見が多く見られます。私も何となくそうじゃないかとは思うのですが、あっさり勝つのもあまり面白くはない。相手は「敵の大将たるものは古今無双の英雄で これに従うつわものは 共に剽悍決死の士」である方が面白いのだし、戦いが終われば「我はたたえつ彼の防備 彼はたたえつ我が武勇」となって握手してさようなら。好試合を望みたい物です。とはいえ、3−0くらいで日本が勝つんじゃないかとも思いますけれどね。