週刊ベースボール選手名鑑号

 「小説に必要なものは全て競馬新聞の中にある」と言ったのはどの文豪だったかしらん。彼が野球狂であったならば「全て選手名鑑の中にある」と言ったかもしれないな。僕は日曜日に週刊ベースボールの選手名鑑号を買った。週ベ(わずか二文字に略される雑誌が他にあろうか)のは買い始めて今年で三年目くらいになる。我が家に僕が生まれるころからの選手名鑑があったけれど、それは決まって日刊スポーツのものだった。僕は時々十何年も前の選手名鑑を開き、そこに知っている顔、知らない顔を見て、長い時間過ごしたりしたこともあったっけ。
 今年の選手名鑑から選手の家族名が消えたという。このご時世ということもあり、選手会からの要望だという。たしかに不要な情報といえば不要な情報だ。独身選手の場合、両親や兄弟姉妹の名前が載ったりするけれど、何の意味があったんだろう。ただ、一方でそんなのを見ながら「面白い名前つけてるな」とか思ったことだってある。選手名鑑は役に立たない情報だって楽しめる。
 この件について編集後記で「昔は住所を載せていた」とあるけれど、これは本当の話。僕の家にあった古い選手名鑑にも、住所が番地まで載っていた。ただ、これは相当古いものだけで、この件についてはすぐにやめになったみたい。しかし、当時の大選手の住んでいるところなど、持ち家だったりするだろうから、今でも生きた情報である可能性もある。家族の名前にしたって同様で、一度流れた情報は死滅しない。むろん、だからといってやめることに意義がないわけではないけれど。
 さて、選手名鑑に話を戻そう。今号の週ベでは選手名鑑を使った遊びの一つとして「出身地方別チーム編成ごっこ」をやっていた。関東や東海や関西などと分けて、ベストメンバーを集めるというもの。こういうのは名鑑好きなら一度はやったことがある遊びだろう。年齢やらヒゲの有無やら身長やらでチームを作ったり。で、そんな企画ページの最後の方に「広島とロッテに感謝したい」とあった。なぜならば、絶対数が少ない地方でも、ちゃんと選手を発掘しているからという。言われてみれば、カープはどこのチームかという感じで、東北出身選手などが多い。東北だかでは栗原健太が四番に抜擢されているし、天谷宗一郎がトップバッターのチームもある。一方、お膝元の中国地方代表チームは、広島出身者が多いのに、カープ選手の数はいまいちだ。
 ここらへん、金銭的な面で苦戦を強いられるカープならではの策かもしれないけれど、なかなからしくていいんじゃないかなと思う。野球人口が少ない地方に野球ファンを生むきっかけになるからだ。もっとも、東北にはゴールデンイーグルスという本当の「おらがチーム」ができてしまったけれど。
 しかしまあ、選手名鑑は見ていて飽きない。もちろん日刊スポーツ版も買うつもりだ。願はくは、どちらもボロボロになるくらい僕がプロ野球に熱中できるシーズンでありますように。