『貧困旅行記』つげ義春

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 しょっぱなの「蒸発旅日記」にやられてしまった。一度もあったことのないファンと、結婚できるだろうと九州を旅する一編だ。そこでつげ先生、うそかまことか知らないけれど、あっさりやってしまうのだ。この緩急の具合にメロメロ。これが桜玉吉の目指す「おっとりエロ」かどうかは知らないけれど、「内省的で鄙びたところを巡る旅行記だろうナ」と思わせておいて(その実そうに違いないのだけれど)、これだ。しかし、若き日の蒸発にしろ、関東近縁への家族旅行にせよ、友人とのあてのない旅にせよ、すべてつげ義春の世界には変わりがないのだ。それがもう、何気なさそうな写真とも相まってたまらない魅力になっている。行動範囲も自分の家族旅行の思い出などと重なり、なんとも懐かしくなるようでもあった。また、宮ヶ瀬ダム完成前から宮ヶ瀬園地がにぎわっていたことなども記されていた。それはともかく、日頃から「湯河原、湯河原」言ってる自分も、七沢あたりの鉱泉宿に行きたくなってしまったのである。ああ、旅に出たい。頭の中でリフレインする、くるりの「ハイウェイ」が。「僕が旅に出る理由は、だいたい百個くらいあって〜」