キングサリーとはどこの王様か

 この日記では、植物の名前は極力カタカナ表記にしている。ウメ、サクラ、モクレン、ニオイヒバ‘スマラグ’……などなど。「漢字の方が雰囲気がある」という思いが無いではないが、列挙した場合の見栄え(競走馬みたいだしね)や、植物の漢字名のいい加減さを考慮すると、カタカナが一番しっくりくるのだ。そもそも、身近な植物には漢字が輸入される前からの、やまとことばの呼び名がある場合も多い。そこへきて、後から入ってきた漢字を無理矢理当てはめると、そこに齟齬が生まれもしよう。というわけで、園芸品種名(‘紫瞑の秋’など)を除けば、標準和名のカタカナ表記一本がいい。
 ……のだが、それはそれで誤解が生じる。たとえば、花が咲くにはちょっと早いけれど、キングサリという植物。こんな感じの花(http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/BotanicalGarden/HTMLs/kingusari.html)をつけ、その姿から英名を「ゴールデンチェーン」。それを直訳して「金鎖」、すなわち「キングサリ」。実に単純明快、のはずなのだが、誰かが「キングサリ」に「ー」を付けてしまった。そりゃ確かにカチコチに和風の名前がついてるとは思えないような花だけれど、これで「キングサリー」という得体の知れない王様が即位してしまったというわけ。誰かが、というのは十中八九どこかの植木屋さん、園芸店だろう。
 もっとも、僕はこれに目くじら立てて怒ろうという気にはならない。むしろ、ちょっと面白いと思うくらいだ。植物に限らず、多くの言葉は誤解や転訛の末に成り立ってる。百年経ったら「キングサリー」が定着して、「金鎖」はその他俗説になってるかもしれない。それはそれでいいだろう。ただ、自分がうっかり間違ったことを書かないよう気をつけるだけだ。