嗚呼 しくじった しくじった
嗚呼 やられたり やられたり
嗚呼 くやしけり くやしけり
最終レースが終わって、椎名林檎の「積木遊び」が頭の中でリピートする。いや、頭の中じゃない、珍しくずっとヘッドホンで音楽を聴きながら競馬をしていた。アナウンスが及川サトルではなかったからか。
レースコースで大外を回るのはロスだが、パドックで大外を回る馬は悪くない。カネヒキリは重戦車タイプではなく、スマートなダートホース。ゴールドアリュールにたとえる人がいるのも肯ける。それがパドックせましと大外を闊歩する。レース前から王様気分のよう。
ドンクールはゴツゴツした馬体に長いタテガミが野武士を思わせた。コンゴウリキシオーはターフホースのように見える。チャコティーはかわいそうなほど小さかった。ボンネビルレコードは暴れていた。
南関の飛車と角行はどうか。二頭とも最内をじっくり回っていた。黒光りするマズルブラスト。背後にカネヒキリを感じるメイプルエイト。二頭とも威圧感を発するわけではないが、チャカつく馬が多い中でクリアなのはいいことかと思う。
俺はマズルブラストをチョイスした。前二走は決してスムースとは言えない。内田博幸のライディングならばポテンシャルを引き出せる。カネヒキリとの折り返し三連単、三着相手はドンクール、メイプルエイト、アグネスジェダイに絞る。そして、カネヒキリが沈んだときのための馬連。もちろん、マズルの単勝も。
馬券を買い終わってコースへ。ちょうど返し馬で内田がぶっ放してるところだった。元気が無さそうに見えたこと、歩様が少しぎこちなくも見えたこと、杞憂だ、と思う。
そしてレースはスタートした。先手争いはスムースにいかない。その争いに加わるマズルブラストが目の前を通る。気合いを入れすぎたのか、内田が少しばかり抑えるようにも見えた。俺は昨年末の帝王賞、アジュディミツオーが目の前を通り過ぎていったときのことを思い出した。いいぞ。
先手を奪ったのはアグネスジェダイだった。マズル、メイプル、カネヒキリと有力馬が先団を占めてレースは進む。そして三四角に入ったあたり、内のマズルブラストがこらえきれなくなった。内田の手が動くが、もはや力尽きたのは明白。その外を、そう、その外を、音もなくゴーストのようにカネヒキリが進出。思わず「持ったまんまかよ」との声。ダートのディープインパクト。問答無用の撫で斬りだった。
二着になだれ込んだのはメイプルエイト。三着に的場文男が押して叩いてボンネビルレコード。ブラウンコマンダーも健闘。ドンクールはカネヒキリをマークするのではなく、先に行って叩き合いに持ち込むべきだったかもしれない。それでも結果は一緒だろうけれど。そして、大きく沈んだマズルブラスト。一か八かの勝負乗りだとは思う。これはこれで仕方ない。ただ、後ろから行けば……メイプルと争えたんじゃないかとは思う。
カネヒキリと争えたんじゃないか、という幻想はここに居なかった東京ダービー馬に託す。パドックで見た垂れ幕「ハイセイコー、イナリワンを超えろ」。おそらく、それも彼のためのもの、俺はそう思った。