日本人とレクリエーション

(先生、壇上から軽く聴衆に会釈)
 今日は、日本人とレクリエーション、という題がついておりますけれど、まあそういったことについてお話しさせていただこうかと思います。それでですね、レクリエーション、なんて言葉が出てきたのはいつ頃だったでしょうか。そう、高度経済成長期などにね、そろそろ休んだほうがいいんじゃないか、と、あるいは、アメリカ人がもっと休んでほしいですとかね、そういった話があったかどうかわからなんですけどね、まあ、レジャーにせよ、レクリエーションにせよ、横文字のものなんです。すなわちね、これはもう、日本語に、というか、日本にそういうものがなかったと、まあ、必ずしもそういうわけじゃないんですがね、明治になって近代化をしてね、そのときそういうのが抜け落ちた部分みたいなものがあるんじゃないかな、と。そしてもう、二十一世紀なんですけれど、高度経済成長のころからこのかた、日本人はずっとレクリエーションが苦手だと、そう言われ続けているわけなんですね。
 それでですね、レクリエーションと言いましても、二つの側面がある。一つは文字通りのお休み、休養なわけです。これはもう、部屋で寝っ転がってればいいんだから、苦手も得意もないわけです。これで一つの、肉体的な疲れというものは、ある程度癒されるわけなんですが、まあ、聖書に「人はパンのみによって生きるにあらず」なんて書いてあるわけですが、こう、精神の方は癒されない。下手に寝っ転がってると、「お父さんは粗大ゴミみたい」なんて言われてしまう。こんなことを言いますと、これも昭和的な、その物言いと言われちゃいますけれど。まあともかく、ストレスは発散させなきゃいけないと、こういうわけです。
 問題なのはこっちなんですね、スポーツ活動でも山歩き、今風に言いますとトレッキングですか、あるいは走っちゃってもいい。こういった活動がですね、諸外国に比べて普及していない、と。まあ、こういう場合の諸外国は、要するに欧米なんですが、彼らの方が余暇の過ごし方が上手いと、どうも我々はそう思いがちなんですが、あながち間違いでもないというところじゃないでしょうか。
(先生、コップから水を一口)
 これまたよく言われることですが、いや、ナントカ人と何々なんていう話題は、紋切り型にしかなりえないわけですが、まあ、日本は本音と建前の社会だと。それに、あまり人前で感情を露わにすることもよしとされないと。こうなってきますとね、勝負事みたいなスポーツとなると、会社でもないのに、なんというか社交儀礼的なものが出てきてしまうわけで、例えばゴルフといったって、接待ゴルフなんていいますが、あれはストレス発散のレクリエーションとは程遠いわけです。もしかして、チョコレートというんですか、そういった意味では麻雀的なね、娯楽といえばそうなんですけれど、あんまりこういう話をしているとおまわりさんに怒られちゃう。
 それでですね、なんだったかな、本音、というか真剣さですね。あまり人前で真剣なところを見せたくない。もちろんそういう人ばかりじゃないんですが、これはもう、若い人もお年寄りもないんですが、それもですね、休みの日の遊びじゃないかとなりますと、より一層恥ずかしいや、となってしまうわけです。そこで、どうすれ
(先生、壇上に登ってきた暴漢に刺され死亡。日曜夜のお笑い番組について語ろうとしていたことが、胸ポケットに残された血まみれのメモから窺える)