誰かに教えたいほど面白かった小説

 上のようなお題を出されると、これ、考え出すと難しい。俺は大した量を読んだわけでもないのに、俺にとって面白かった小説は何かと考え出しても悩んでしまうが、さらに「誰か」に「読めばわかるさ」となると、これはもう頭をひねってしまう。「誰か」が純文学好きなのか、ミステリ好きなのか、どんなジャンルがダメなのか、エロや残酷描写は大丈夫なのか、横文字人名が得意か苦手か……、そういう点で大きなマイナスが少ないような、それだけの汎用性とパンチのある小説とはどんなものだろう。
 とりあえず、俺が日記をつけたはじめた後、どんな本を読んだかアーカイブ見返してみよう。うお、漫画も映画も展覧会も一緒でわかりにくい。「読書」あたりで再構成しようか。
 それにしても最近はSFが多いな。『キリンヤガ』はかなりお題に適していそうだ。うん。『ニューロマンサー』なんかもかなりいけそうだが、多少あの世界と文体は癖が強いか。箱には『猫のゆりかご』項があるな。カート・ヴォネガット(ちなみにこの項でも‘ヴォガネット’とやってしまってる人がいる。俺は、「う゛ぉねがっと」と打つと「ヴォガネット」と変換されるようにしている。なんでこんなに紛らわしいのか?)か。『猫のゆりかご』は……タイトルから一瞬どんな話だったか思い浮かばなかったが、ボコノン教のあれと気づけば、なるほど頷ける。そうか、ヴォガネットは怖いけれど面白い。あまり、人を選ばないかもしれない。俺の好みで言えば『チャンピオンたちの朝食』、『スローターハウス5』、『デッドアイ・ディック』。人に薦めたこともあるが、はたしてどうだったか。
 他に箱内に目をやれば、「瓶詰地獄」は夢野久作。この作品もそのシチュエーションからか一部に人気で、ちょくちょく名前を見るような。この作品は、『ドグラマグラ』ついでに昔読んだ覚えがある。しかしなんだ、夢野久作青空文庫入りするほど昔の作家なのだと思うと、これはちょっとした驚異だ。『ドグラマグラ』は面白いが、お題に沿ってるとは言えない。その点こちらは短篇なので、切れ味勝負というところだろうか。短篇と言うことならば、ロアルド・ダールの「南から来た男」"Man From the South"とかはもう、掛け値なしに素敵だ。
 あるいは島尾敏雄の『死の棘』項もあるな。こないだ『魚雷艇学生』を読んだが、『死の棘』はもっと昔に読んだし、映画もビデオで見た。たしかにこれは、面白い。ただ、多少人を選ぶのではないか、などと思ってしまった。後藤明生に比べれば、選ばないかもしれない。よくわからない。
 ミステリはどうか。純ミステリは、そういうものに興味が無いときに読むと退屈だ。というか、俺は「密室物が読みたい!」という意志の無いときは、一ページたりとも読みたくない。そのかわり、その気分に浸ってる間はひたすら貪る。それでは、宮部みゆき高村薫あたりは。後者はややゴツゴツの文体などが気になるが、前者はオールオッケー。そうか、ベストセラーだものな。しかし、今、どれが面白かったかというと名前が出てこない。ああ、やはり俺は面白いミステリをものすごく楽しく読んで、それっきり忘れてしまう傾向がある。トマス・H・クックとか。
 アメリカか。ジョン・アーヴィングあたりはどうかか。しばらくアーヴィングを読んでいないが、なぜか今、アーヴィングは面白かったのかどうか懷疑的になってしまっている。よくわからない。ただ、『ホテル・ニューハンプシャー』や『ガープの世界』は、パンチ力において疑うところはない。ポール・オースターはどうか。悪くないぞ。けれど、多少カリカリの仕上げ加減で、色が薄いかもしれない(精一杯言葉にしようとしているが、これが限界だ)。しかし、やはり小説はどこかこう、日常の脇腹やあばらの間にねじ込んでくるナイフ、あやしの毒であってほしいと思う。そういう点が欲しいのだ、児童向けの絵本であろうと官能小説であろうと。あと、アメリカついでに南米はどうか。ボルヘスよりはガルシア=マルケス。人に薦めるならば『エレンディラ』などの短編集か、そうだ、とても完成度の高い中篇『予告された殺人の記録』。これはばっちり人に薦められるかもしれない。
 それでフィリップ・K・ディックはどうか。SFはSFだが、その範疇のものではない。しかし、人からいきなり『ヴァリス』を薦められるのはきつい。『ザップ・ガン』も別の意味でどうかと思う。しかし、どこかに中間点があるはずだ。いい短篇も多いが……そうだ、『高い城の男』。タオイズムの要素もいいスパイスになっているし、歴史ifの設定もばっちり、人物描写もばっちり。よし、これだ、と俺は項を作った。……つもりだったが、今、箱を開くと、作ったのは『ユービック』項だった。俺はディックの世界に迷い込んでしまったのか?

※この項、書いても書いてもまとまらないので諦めたが、せっかく長いのでメモに残す。