SF映画『ニューロマンサー(原題) /Neuromancer』の実現が一歩進んだ。映画『マトリックス』『攻殻機動隊』などのSF映画に多大な影響を与えた、SF小説の金字塔「ニューロマンサー」の映像化企画だが、ヴィンチェンゾ・ナタリ監督によって2012年早々に着手するとcollider.comなどが報じた。
SF小説の金字塔「ニューロマンサー」映画化をヴィンチェンゾ・ナタリが監督、東京で撮影も? - シネマトゥデイ
テレビの空きチャンネルの色を今の子供たちは知らない。僕たちの脳みそはいまだに電気じかけではなく、セシウム色の空を感じることすらできない。
そんな今日の日本に、『ニューロマンサー』映画化進行中の一報が舞い込んできた。これはたいへんな話だと思う。『ニューロマンサー』にはとくべつな何かをいだいている人……、SFファンも少なくないと思う。そこで、ウィリアム・ギブスンが映画化について語っているインタビューを紹介しようと思う。
『ユリイカ』11月号、特集「P・K・ディック以後 サイバーパンク・カルチュアへ」。P.160から始まる「ヒーロー騒ぎの渦中で…」ウィリアム・ギブスン+トム・マドクス/黒丸尚訳。あるSF大会での公開インタビューを書き起こしたものだ。
映画化の話はこんな流れで出てくる。ギブスンがハリウッドの映画プロデューサーに招かれ、最高級の「べヴァリー・ヒルズ・ホテル」へ赴いた「有名人感想記」を披瀝したあと、聴衆が「その話は『ニューロマンサー』の映画化についてですか。」と問う(黒丸訳なので「?」じゃないのは言うまでもない)。
ギブスン 買い手がついたんだ。変テコで前例がなく、最終的には悲劇に終わりそうな取り引きで『ニューロマンサー』に買い手がついた。映画化権というのは、ふつうオプション契約だ。僕も「クローム襲撃」という短編で―これはプロトタイプというか、『ニューロマンサー』の縮尺模型なんだけど―二年ばかり前に、これにオプションがついた。オプション契約のとき、むこうは、こんなことを言う。「さて、我々はこれを映画化するについて、三万ドルを支払いますが、作らないということも考えられますので、一種の分割払いをします」。そこで、毎年十パーセントを払ってくれる。それが商売のやり方というものだ。『ニューロマンサー』については丸々お買い上げ、なんだ。さっさと、一式買い取り。だから、向こうは今、困ってることだろうけど、こっちには金がはいった。映画ができるかどうか、僕も誰も知らない。やれるのかどうかも知らない。わかりっこないよ。映画ってのは僕の商売じゃないんだもの。
聴衆 自分の長編が映画になって嬉しいですか。
ギブスン ジョン・ル・カレは何と言ったっけ。自分の牛がブイヨンの塊りになることについて。
自分の牛がブイヨンの塊りになることについて。だってさ。
さて、それはそうと、このインタビューは映画化の話がメーンではない。ギブスンがどんな作品に影響を受けてきたとか、そういう話をしているんだ。考えてみたら、僕もちょっとはSFの本をかじってきたが、SF雑誌を買ったりはしていないから、あまりそういう著者の話とかは知らないんだ。僕がとりわけ興味を引いたのは、これが載っていた雑誌の特集でもあるP.K.Dからの影響について尋ねられたくだりだ。個人的なことになるが、僕のSF歴というのはカート・ヴォネガットの『チャンピオンたちの朝食』とP.K.Dの『ザップ・ガン』から始まり、両者の作品を追いつつ、バーンとギブスンが現れ、その後はその他いろいろという塩梅だ。まあ、はっきり言って僕がSFを読み始めたのは2000年も過ぎてからのことだったと思うのだけれど、ともかく、彼らやほかのSF作家たちが、べつのSF作家をどう思っているのかとか、ちょっとは気になるところじゃないか。とくにギブスンとディックとなれば。
マドクス ついでに、形式上、真実追求のために訊くけど(なぜこの話題にならないのか理解できないんだけど)、フィル・ディックは……
ギブスン フィル・ディックに本気になったことは、一度もない。どうしたものか、行き当たらずにすれちがったんだね。子供のころ、あの人の長編を読んだという憶えがないし、もしかしたら短編はいくつか読んだかな、という程度。ところが、ディックが誰でどういう作家なのか、わかったころには、もうピンチョンを読んでいた。ディックの効果はピンチョンでも得られるよ。ただし、フリーベースをやるようなものだけどね。僕はディックを必要としなかった。
ディックの効果はピンチョンでも得られるよ。だってさ。じゃあ逆に、僕はパラパラめくってみても何が書いてあるのかさっぱりわからなかったピンチョンを読まなくてもいいってことだな。高いし。やったー。
……というか、まあ、いろいろほかにも挙げられている名前について、名前しか知らないということも多くて、不勉強を感じてしまう。ここのところはSF小説にご無沙汰だったけれども、とりあえず『ニューロマンサー』を読み返そうか。僕もテレビの空きチャンネルの色を見なくなって久しいのだ。
■関連商品
残念ながら『ユリイカ』1987年11月号はAmazonで買えないみたい。
とりあえず、短篇集『クローム襲撃』から入るといいと思う。「とりあえず」ではなく、名作ぞろいだ。ギブスンのいいところは、かなしみのあるところだと思う。サイバーの郷愁がある。
『バルドスカイ』。エロゲーでアクションゲームなのだけれども、ギブスン好きにはたまらない作品だと思う。あと、僕はエロゲーについてこれと『エヴォリミット』(これもすばらしいSFだ。登場人物のカンパニー・マンはヴィンチェンゾ・ナタリの映画が元ネタらしいのでチェックしてみよう)しかプレイしたことないのだけれども、『まどマギ』の円環の理あの世界がエロゲーでさんざんやられていたというような話を読んで、名前はあがっていないがこれを思い出したっけ。
■関連記事
面倒なので、下の機械仕掛けか「SF」のタグから探してください。
あと、こんな雑文だけれども、原発事故前にこんなことを書いていたやつが、事故後にどんな反応をしたかはこのブログで確認できると思う。