大賞典には一人で行こう

馬とペン 吉川彰彦
http://www1.sphere.ne.jp/nikkeiba/koei/yoshikawa/yoshikawa-column.html

 しばしば思うこと。「一人」がいいのは、まず競馬場がそうだった。
 競馬(ギャンブル)とは自分と遊ぶ最たるもの――。丸一日戦って勝ったり負けたり、そのうち何やら思い当たる。大胆な自分、小心な自分、横着な自分、用意周到な自分…。瞬間瞬間で刹那的だが、さまざまな自分に出会い、へえぇそうかと驚くこと。

 いよいよ明日は東京大賞典。金欠その他によって地方競馬場と縁遠くなっていたけれど、せめて総決算の一戦はこの目で見る。せっかく行くのだから連れの一人でもいたほうがいいかと声をかけておいたのだが、ここにきて「やっぱり外はむちゃくちゃ寒いし、俺は競馬場に行くと一人であっちいったりこっち行ったり歩き回るし、あまり面白くないかもよ」などと言って、いわばこちらからキャンセルさせてしまった。
 競馬場には一人で行け。俺もそう思う一人だ。人の目があると、馬券すら不自由になる。見栄や打算、ただでさえ多くの事柄が頭に渦巻くのに、さらなる雑莢物が入り込んではたまったものじゃない。俺と競馬とすれ違うだけの見知らぬ戦友。それだけでいい。競馬場は俺のニッチであって、心休まる場所だ。誰も入り込んではならない。
 とはいえ、俺は一つの雑莢を持ち込もうかと思っている。デジタルカメラ。昼の開催だから写真も撮りやすい。あのバズーカみたいなカメラを持っている人たちのようにはいかないだろうが、かっこいい馬の写真の一枚でも撮ってみたいとはたまに思う。ただ、あれがあると、どうにも注意が分散してしかたないのだけれど。
 さて、レースはどうだろう。ナイキアディライトアジュディミツオーシーチャリオットなどの南関勢に、タイムパラドックススターキングマンシーキングザダイヤなどの中央勢。ダート界の暫定チャンピオンであるカネヒキリ不在を除けば、ほぼベストの組み合わせか(ヴァーミリアンは見たかったが)。これはちょっと、今のところ見当がついていない。
 心情的にはアジュディミツオーシーチャリオットを応援したいところで、順当に考えれば前者、配当的には後者だろうか。ただ、シーチャリオットは前走が骨折あけを勘案してもふがいなさを見せたのが気がかりで、冬にきちんと絞れてくるかどうか。それに、内枠はマイナスかもしれない。ミツオーの大井二千の持ち時計は半端なものじゃないが、今年は馬場がカラカラだろう。もし、体調が万全ならば迷わないが。この点は、降雪のない関東地方の馬ということが幸いするかもしれない。
 あるいは、去年パーソナルラッシュに浮気したように、中央か。やはりタイムパラドックスは強い。大外を引いたが、そこらあたり武豊がどうにかするだろう。ディープインパクトの敵を大井で討つシーンもあるか。そして、前走復活の気炎をあげたスターキングマン、意外なことに大井初参戦のシーキングザダイヤ
 ああ、どれもこれも迷うばかりだ。こうなったら、せっかくだから、パドック見て決めるか。ただ、このクラスの馬はパドックで基本的に見栄えするので難しい。とはいえ、せっかくだ、それでいこう。何か降りてくるかもしれない。何も降りてこなかったら、オッズ見てスケベ心だけでいこう。もう本命馬なんて現地調達ってところでね。