ワールドベースボールクラシック:決勝

goldhead2006-03-21

 日本の決勝の相手はキューバ。プロをそろえたドミニカ、というのも興味はあったが、野球世界最強軍団のイメージがあるキューバが、メジャークラス相手にも強かった、というのは少し嬉しい。リナレス、キンデラン。やはりキューバの強みは、身体性能ではなく、幼い頃から植え付けられた野球脳、野球IQの高さではないだろうか。それが国家規模で運営されているのだから、国は小さくともまさしくエリート集団だ。メジャーリーガーを目指したピッチャー・カストロの夢の国。キューバは野球でできている。とはいえ、日本の‘甲子園システム’だって負けてないぜ。
 そういうわけで、一回表から山場になった。キューバのベテラン先発、雰囲気あると思ったら、案外あっさり乱れる。日本に運の波が来ているのか。里崎の殺人打法はおそろしい。まさ多村‘スペランカー’仁への死球に対する報復ではあるまいが。その後さらに押し出しから今江のきれいなセンター返し。点が取りにくいと言われる満塁からのビッグ・イニングで打者一巡で四点。上々すぎる。
 日本の先発は‘日本のエース’松坂大輔。ところで俺は、松坂を‘日本のエース’と表現することに一ミリの迷いもないが、‘西武のエース’というと西口文也だろうという気になる。西武ファンの人がどう思っているかわからないけれど。で、我らのエースはいきなり先頭打者に本塁打。これなんていう野球漫画? でも、その後は気迫でざっくり斬って捨てる。気合い入ってる。
 二回表、先頭打者川崎宗則が絶妙のセーフティ・バント。が、キューバのキャッチャーがすさまじい反応&強肩。やたらピッチャーへの返球が速くて目立っていたが、いやはややはり世界は広い。イチローのいい当たりもショートの垂直ジャンピングキャッチ。わかっちゃいるが、あっさりいきそうにない。
 三回裏。無死二塁のピンチ。急に松坂の球が高めに浮き出す。この密度でまだ三回裏とは……。結局しのぎきったが、球数制限もある以上、継投が問題になってこよう。
 四回裏。ピッチャー返しでセンターに抜けようかという打球を川崎が好捕。「捕」だけでもたいしたものだが、そこから好送球。日本人内野手と外国人内野手を比べると、どうもアームの弱さが感じられるが、単に見た目の印象なのかもしれない。その直後安打を許したのはいただけないが、後続はピシャッと抑えた。
 五回表。イチローのヒットに松中の内野安打。ずるずる点が取れないと、リードしていてもいやな雰囲気のところだっただけに、これは貴重な中押し点。キューバはまたピッチャー交代。「次の試合はない」というのは自明の話だが、こうサクサクやってしまうのは、やはりこういった大会の経験が大きそうだ。同じトーナメントでも、日本の高校野球みたいにエース一人が投げ抜いてナンボ、というのとはまた違った大会勘みたいなものである。
 五回裏。ここで渡辺俊介投入。もしもWBC球数制限がなかったら、松坂に託すところだったかもしれない。しかし、百球越えからの覚醒を望めない以上、これはいい采配かもしれない。松坂―渡辺俊。なんと打者にとってやりにくいリレーだろうか。ここで打ちあぐねるキューバはすぐさまセーフティバントなどを見せてくるが、まるで話にならない。まずは効果覿面か。
 六回表。川崎のセーフティバントに対するは、今日初めてのボブ・デービッドソン。ボブ、この判定は……、まあいいか。今日は目立たなくていいからね。ん、西岡のゴロのファウル判定にブーイング。あれ、ボブ機運高まってきたかしらん。それはそうと、キューバのサードの肩だかアームだかはむちゃくちゃ強いわな。それに、キューバの選手は諦めずにぶん投げてくるところがあるね。それがエラーに繋がってるところもあるみたいだけど。「ボールは人間の脚より速い。間に合わないと思っても一塁送球してみることだ」(鶴岡一人、平成十二年三月七日、心不全のために他界、享年八十三)。
 六回裏。川崎のイージーミスからピンチが広がる。決して渡辺俊の球をきれいに捉えているわけじゃないが、それがヒットになる。ここらあたりが、キューバの底力というものか。一点返ったのち、キューバ国内打率四割打者ウルティア。今回不調で六番らしいが、ぐっと瞬きの間をおいて、タイミングを合わせてセンター返し。天才的! 次をゲッツーでしのいだが、うわ、危ないところだった。すごく危ないところだった。
 七回表。誰が言ったかラッキーセブンも、三者凡退。モメンタムはキューバ寄りか。
 七回裏。川崎、またもやエラー。何かが取り憑いたか。しかし、衝撃的である一方、野球にはありがちな展開。しかし、次の強烈なショートゴロを……いったん弾くもゲッツー。うーん、すごい筋書き。と、思ったら、今度は渡辺俊がエラー! 手に汗握る展開だ。見ているだけでこの緊張感。選手はしびれるぜ。
 八回裏。当たりは悪いが内野安打。どうやら渡辺俊に悪い流れか……。と、ここで左の藤田宗一にスイッチ。出てきた回の渡辺のテンポならば最後まで行けただろうが、そうは簡単にいかない。そして、ツースリーからレフトフライ。本当に手に汗握る。解説席には聞こえないようだが、マイクは確かに「ニッポン」コールを拾っていると思う。が、‘野球の勝ち負けは年俸が決めるんじゃない、ハートが決めるんだ’セペタがツーランホームラン。一点差!
 ここで大塚晶則登板。サンディエゴは去年までの地元。こわばる王監督。しかし、ウルティアをピッチャーゴロ。「ニッポン、チャチャチャ」がかすかに聞こえる。野球は野球でバレーボールやサッカーとは別の何かを生み出すべきじゃないのか。とか思ってたら、‘エリア51’へのフライでスリーアウト。
 九回表。なんとしても追加点。ここで金城がエラー気味の内野安打で出塁。次の送りバントを川崎が失敗! というか、キューバ三塁手スゲ。が、が、が、西岡が絶妙すぎるプッシュバントで一死一塁二塁。イチローコールがはっきり聞こえる。ここで打ったら絵になりすぎるぞイチロー。打った、抜けた! あ〜あ、しかし、本塁憤死……ではなくセーフ! 右手を、右手をすべりこませていたのか! なんという技術。トム・ハリオン球審よく見た! ボブじゃなくてよかった! 
 ここで代打福留。最初の二球ファウルで、やや力みが見えたが、三球目を引きつけて逆方向のタイムリー。イチロー必死の生還で四点差。しかし、舟越よ、あまり頂が見えた、見えた言わないでくれ。緊張してくるぞ。
 九回裏。ツーアウト。あと一球……大塚の沈むスライダーで三振! 世界最強! 世界の頂点! 万歳! 万歳! 万歳! 日本野球万歳! 野球万歳!