空を飛ぶ夢はもう見ない

 俺にはよく見る夢が二つある。歯が抜ける夢そして体の動作がうまくいかなくなる夢だ。
 歯が抜ける夢は嫌な夢だ。ぼろぼろ、ぽろぽろ歯が抜けていく。俺は元より顎が小さく噛み合わせが悪いので、虫歯がちな子どもだった。歯並びの悪さは今も変わらず、おそらく脆弱であろう歯への信頼感の無さときたらない。それが夢の中で具現化する。当たり前のように抜けていく。
 全力で走っているのにめっちゃ遅い夢は嫌な夢だ。どんなに力を振り絞っても、手足が鉛のかたまりのように重く、スローモーションのようにしか動かせない。舞台が競走であれば次々に抜かれていく。しかし、どうしようもない。同じタイプの夢で、野球のボールが投げられない夢もよく見る。
 これら夢には多く有効票が投じられているので、ある種の夢のステロタイプなのだろう。夢判断するときっとこうなるだろう。「日頃抱いている不安感や力の喪失への危機感のあらわれです。遠い原因は幼少期の性的トラウマもしくは心的外傷にあります」。空を飛ぶ夢はいつ頃からかぱったりと見なくなった。