私を見る目

 ネットの世界にはGKがいるとかいないとか言うが、私はこう言いたい。「ネットにはJTがいる」と。GKがゲートキーパーなら、JTとは何の略か。日本たばこ産業である。
 去年の十二月のことである。私が久々にニコチンタール箱を買ったその夜に、JTは追い打ちをかけるようにサンプル煙草を送ってきた(id:goldhead:20051222#p4)。そして、昨日ことである。私が「俺がここ二ヶ月くらいタバコやタバコに類するもの(ハーブ煙草、紙巻きシガー)などを一切吸っていない」(id:goldhead:20060328#p2)と書いた途端にサンプル煙草が届いた。セブンスターのREVO、紫色の煙草だった。
 監視の目におそれにおののいた私は、酒(梅酒)を呷った。酒を呷って煙草を吸った。久々のニコチンタールを吸ったのである。

「誉」と名づけられた軍隊専用の包装も粗雑な安煙草を、一本抜き出すと私は口にくわえて燐寸をすった。そして最初の一口を深々と吸い込んだのだが、思わず遠くを見やる目つきになっていたようだ。するとどうだろう、口の中に残っていた羊羹の甘味とひびき合って、何とも言えぬ快い刺激が湧いてきたのだ。こんなにうまい煙草をこれまでに吸ったことがあるだろうか。それは実に恍惚! とも言いたい状態で、総てを忘却して浸ることができた。私は立てつづけに三、四本は吸ったろう。その恍惚を逃したくなかったからだ。しかし最初の一本ほどの忘我のうまさは二度とやってはこなかった。

―『魚雷艇学生』島尾敏雄より引用
ASIN:4101164045id:goldhead:20050413#p1)
 
 久々の煙草の衝撃と忘我、そして喪失感。私が禁煙の空白期間がもたらす衝撃の大きさと、常習品としての煙草のどちらを選ぶか、また、ニコチンが私をどうさせるのかわからない。ただ一つわかるのは、私が私を煙草から無関係になったと見なしたとき、JTがそっとサンプル煙草を送ってくるということだけなのである。