あおば20時45分の激闘〜おっさんvs経済〜

 会社帰りにスーパーに寄ると、ちょうど惣菜に値引きシールが貼られ、それが二割引なら目をくれず、半額ならば考えた末に買うというこの俺、昨夜も同じく閉店15分前にたどり着いたが、棚が見事にすっからかんになっていて驚く。しかし、ふと気づくと、ただならぬ気配が漂ってるのに気づき、急に怒声飛んで「さっさとそのシール貼れ! どうせ捨てるんだろう!」と寿町系かどうかさだかではない中年男性、棚に置いた彼の買い物カゴには買い占められた惣菜がぎっしりと詰まっていて、茶髪の女性パートを睨みつける。事態を察したのか、奥からあき竹城のようなパートのボスらしき女性が出てきて、「お客さま、いかがいたしましたか?」と毅然と対応し、男は「どうせ捨てるんだろう! 明日売れるもんじゃねえだろう! 早くシールを貼れ!」の一点張り、遠巻きに見る野次馬少し、その中には俺。俺は藤原新也が何かの本に書いていた上海の蟹売りのことを思いだし、その蟹売りというのは、夕刻店じまいになると売れ残った蟹を客の前でぐちゃぐちゃに踏みつぶし、「いくら売れ残っても値引きはしない」という意志を表明するのだという。値引きシール一つにしても、売れ行きがよければ多少の廃棄品を出してもシール無しか二割引きシールで通した方がいいのだろうし、時には半額シールで売り切ってしまった方が得というケースもあるだろうが、いずれも店が損益を計算して商売として決めること、馴染みの店員にちょっとお願いしてこっそり貼ってもらうなどというならともかく、居丈高に正論述べるがごとくふんぞり返っても肯ける話であるわけもなく、「どうせ捨てるのだから」というのなら、捨てられたものに合法的にアクセスするのが男のするべきこと。かくしてあき竹城一歩も退かず、「それは大丈夫ですから。大声はほかのお客さまに迷惑ですから」と繰り返し、ついには無言の対峙となって俺の興味も高まるところだが、俺とてこのスーパーを毎日のように利用させてもらっている身であって、あまりトラブル楽しむ様子見せるのも失礼に思い、パンと牛乳とかつお節の入ったビニール袋ひっさげて家路についたが、その晩は牛乳にひたしたパンにかつお節を振りかけて食ったわけではない。