ドラマ『白虎隊』第二夜

 「作者がこの作品で伝えたかったことは何か、三十字以上五十字以内で述べよ」……というのは国語テストの設問にありがちなのだけれど、私たちがドラマや映画、小説に接していて、勝手にそういう想定をしてしまうことはないだろうか。その想定の上で、作者の思想や考えと、自分のそれが合致しているかどうかで作品を肯定したり否定したりする。それじゃあ先に作者の身の上調査でもしておいて、思想が合致していればオーケー、相反していれば作品もアウト。作品なんて見る必要がない。極論だけれど、そういうものの見方に陥ってしまうことは、ままある。
 とはいえ、作品がほとんどプロパガンダの道具みたいになっているような場合もあって、そこまでされたら、こっちもその土俵で見ざるを得ない、なんて場合もある。そんなものでも面白いものはあるから面白いのだけれど、でも、やっぱり一般的によい作品とされるものは、見る者にいろいろと考える余地を残すもの、複眼的、多面的なもの、である場合が多いだろう。
 で、今回のドラマ『白虎隊』はどれに当てはまるのだろうか。もしも私に誉めなければいけない事情があるならば、最後に挙げた名作タイプと答えたいけれど、残念ながらそこには落ち着かないように思える。むしろ、そこまで考え込まれていなくて、なーんかテーマがとっちらかっちゃいました、というように思えるのだ。
 と、いうのも、自分が国語のテスト式思考に陥っているからなのだけれど、まあ、その程度といってはなんだけれど、そうなのだから仕方がない。
 それで、「伝えたかったこと」はなにか。最初と最後の現代劇や、司馬遼太郎の引用からするに、会津や白虎隊は美しかった日本とか、日本人の精神だとかの現れみたいな、そこらあたりは肯定的な扱いといっていいだろう。
 けれど、やっぱり薩長に救いがない。そこが非会津人には引っかかるし、もしも武士道精神肯定がテーマだとしても、どうにもすっきりといかない。だってあなた、吸血ですからね。薩長同盟なんて、はかりごとをよしとしない会津人には想像も及ばぬこと、って言い切っちゃってますからね。松平容保だって、幕府方としてそりゃいろいろ影で動いてたんじゃないですかね。これじゃあ、太平洋戦争に負けたとき「薩長の政府が負けた!」と喝采したとかいう伝説そのまんま、ですよ。別に、「会津の見方だけでドラマを作るな! 新政府側も平等に扱え!」とか馬鹿な平等主義言ってるわけじゃあない。史実を元にしたところで、善悪はっきりつける作品があってもいいと思うですよ。でも、もしもそう作るなら、日本人全般に話広げるな、と。会津のためのドラマ、で完結すれば、そりゃあそれでおもしろいかもしれない。
 あるいは、「よく生きて、よく死ね」→「生きて働く」への転回も中途半端だったかな。あーんまり「いのちだいじに」を強調すると武士道から離れるが、さすがにそれ一辺倒じゃってところで、前者の方に「よく生きて……」要素を入れすぎたようにも思える。でも、切腹未遂後の主人公の中身もようわからなかった。
 それでもって、やっぱり、ここまで来てドラマのディテールに入らないのは、あまり印象にないからだろうか。まず、主人公にあまり印象がない。切腹しそこなったあとが中途半端だ。話し相手の台詞にあったが、生き残ったものの苦しみもあまり感じさせない。むしろ、野良着で帰ってきて、どうすんのかなってあたりで、そのまま遁世してしまうような雰囲気のまま行けば……って斬新すぎるか。で、的場隊長に食ってかかるシーンは、ちょっと何か変化を感じさせたがね。まあ、あれは誰もが突っ込みたいところかもしれんけれど、でも、単発だよな、とか。あと、薬師丸ひろ子も、あんだけ言ってたんだから、「病人は足手まとい」って腹切れよみたいな。まあ、あの奇天烈なキャラ的に「天寿まっとうかよ」のツッコミ待ちはアリだが。で、結局、容保公の描かれ方も中途半端で、なんでお前腹切らないのかみたいな見方もできてしまうし、ここらがちょいと中途半端、とっちらかりなのよ。もうちょっと、それぞれの内面を、とくに容保を、ねえ、って。あと、三人組っぽかったけど、野良着着て別れた方はどうなったんだっけ。
 でも、いいところと言えば、なかなかえぐい表現をしてくれたことか。娘の首をドカって、横山光輝三国志みたいな、とか。でも、集団自刃のシーン、腹だけじゃあすぐに死ねないよな、とかリアルにやられても困るか。でも、実際どうだったんだろう。刺し違え、だろうか。フラウィウス・ヨセフス(http://d.hatena.ne.jp/goldhead/20061114#p3)みたいな奴が生き残ったりしなかったんだろうか。いずれにせよ、ここは悲惨な話、悲話だけれど。
 つーわけで、なーんともなんかようわからんという話でしたが、でもまあ、実際、当時の人たちにしても、なーんともようわからん時代の流れに巻き込まれてしまったわけで、そっからなにをどうくみ取るかは一様ではないわな、うん。そんなところでお茶を濁そうっと。下手な鉄砲でもアームストロング砲でも、とにかく幕末ものドラマはどんどん撃ってほしいからな。