ヘイ、タクシー その2

 アパートの近く、車の通れる道までの路地、よく見かける女性がいる。歳のころは三十から四十、非常に恰幅がよく、目立つ白のコート着て、iPod聴きながらくわえタバコの貫禄。俺は内心ひそかに彼女を“ヴィラーゴ”、すなわち女丈夫と呼んでいるのだが、そのヴィラーゴがカツカツと歩いて路地の先に待つのはタクシー。タクシーで通勤をしているだろうかと思うと、裕福な商売人か何かだろうか、とも思う。しかし、運転手付の自家用車や社用車が来るほどでもない。そもそもハイヤーでもなしに、普通のメーター付タクシー。それがすこし面白く、その費用などについても考えてしまう。が、行き先もわからないのだから考えても詮無きこと。
 そんなヴィラーゴなのだが、彼女が汚いママチャリを漕いで行くのを昨日の朝見てしまった。特徴的なコート、間違いないはず。俺はますますわけがわからない。