『うつせみ』/監督:キム・ギドク

うつせみ [DVD]
 『サマリア』でノックアウトされた俺、今度はヴェネチア国際映画祭受賞作『うつせみ』を観た、ノックアウトされた。何かアンケートやプロフィールに「好きな映画監督」という項目があったら、「キム・ギドク」と書いてもいいと思う、たった二作観ただけなのだけれども。
 『うつせみ』は邦題(原題は『空き家』、英題は『3番アイアン』を意味する)なのだけれど、この邦題は見事。豊かではあるけれど、愛の冷めてしまった夫との生活を送る人妻、そして、留守の家に忍び込んで、かりそめの生活をしながら各地を転々とする唖の若者……という主人公たちは「うつせみ」の題なのだけれども、後半にいたって「そっちかよ」と思わず笑ってしまう「うつせみ」であって、さらには最後わざわざ文言で出てくる主題としての「うつせみ」であった。
 思わず笑ってしまうというとなんだけれども、「この映画はどこへ行く気なのか?」というのは『サマリア』でも感じたところだが、こちらはその上。少々気になるところがあっても、そんなのお構いなしで映画の持つファンタジーや美の方へ引き寄せてしまう。えらく強引でいて、やけに繊細。そして、映画でなくてはこれは無理と思わせるものになっている。それでいて、映画以上の何かのようにすら思わせるのだ。自分の言葉が上滑りしているのは承知だが、どうにもそういう感じを受けたのだ。
 というわけで、「セコム役に立ってねー」とか「ゴルフボールってそんなに強烈なん?」などという細かなことはどっかに吹っ飛んでしまう名作(あるいは、超珍作と言えるかも知れないが……)。ちなみに、見るからに寝取られものなのだけれど、DV旦那にはあまり感情移入できず、そのあたりはどうでもよかったが、どうでもよくてもなんともないのだ。