『選挙』/監督:想田和弘

選挙 [DVD]
○日本のどぶ板選挙についてのドキュメンタリ。海外の映画祭などで人気が出たという。……という思い込みがあったため、なんとなく外国人が撮ったドキュメンタリ映画かという印象があった。始まりと同時に監督の名前が出てきて「違ったんだ」と思った。
●したがって、「アメリカ人の撮ったおかしなニッポン」というような感じはうけない。むしろ、もう、誰かの撮ったホームビデオを見ているような錯覚にも陥る。もちろん、本当にホームビデオだったら退屈でこれだけ見ていられないだろう。きちんと編集された映画です。
○とはいえ、あまりにも日本的といった感じもあって、外の目は気になってしまう、外から見たらどう映っているのか気になってしまう。しかし、たとえばあまりにもよく撮れていた満員電車の一コマなどは、「マジかよ、この混雑」と、正直外の目。川崎とは地続きの横浜民のくせに。
●選挙の裏側というか、裏というほど裏でもない中はどうなっているのか。チラシやパンフを用意してる現場は。これについては、わかるような気がする。記憶の中に覚えがある。「文化祭前夜」の感じ。遅くまで学校に残って、なんか作業している感じ。たぶん、こんな感じの空気については学校生活などで知ってる人が多いのではないか。少なくとも、俺にはそう見えた。
○そんな中で、よその事務所から駆り出されたおばちゃんたちの、なんということもない会話が長々と映し出される。これが案外おもしろい。普通オフレコだろ、みたいなことまで出てくる。実に素のままだ。
●そうだ、出てくる人らがみな素に見える。カメラが目の前で回っていることを意識している風ではない。主人公を叱りつけるベテランの裏方、夫に不満をぶつける奥さん、その他いろいろ。これはもう、撮影者=監督のテクニックか人柄か、なんだかわからないけれど、これはスゴイ。
○あと、あくまで印象だけど、カメラの前でこんだけ晒しちゃうあたり、自民党ならではってところもあるような気がする。他の政党だと、このフリーダムさは無いのではないか。そりゃあ体育会系、縦社会、いろいろなズブズブだけれども、この緩さが日本人にフィットして、長いこと政権にいるんじゃあねえか。良くも悪くも、やっぱり自民が日本土着的空気持ってるんじゃねえのって。
※俺が各政党に持ってる、なんとなくのイメージ→http://d.hatena.ne.jp/goldhead/20080319#p6
●ところで、この映画を観る限り、主人公山内和彦さんが何のために政治家になりたいのか、具体的に何をしたいのか、正直よくわからなかった。カットされたのか、そもそもとくにないのか。悪い人じゃあないんだけれど、ただ政治家になりたいだけなのか、と思えなくもなく。なんとなく、用意不十分で夏休みの自由研究発表させられる小学生みたいに見えないこともなく。
○しっかし、諸先輩議員や裏方ら、役者でもここまで用意できようかというはまり役。いや、実物なのだからはまっていて当たり前なのだからなんだけれども、これはピタッと来ていた。そして、小泉純一郎、川口順子(この人もドブ板っちゃうんだな)、石原伸晃橋本聖子などのカメオ出演(?)もいい味が出ている。市議の補欠選挙という本来地味なところ、いろいろなタイミングが重なってこうなっているのだから、撮られるべくして撮られた映画という気もしてくる。
●開票のシーンはドキドキした。結果を知っていながら、さすがにこれは緊張する。……と、正直なところ、俺はその「結果」について大勘違いをしていて、その間違った結果を頭の片隅に、「やっぱりこれだから」と思って観ていたのだ。間違っていたのは俺か世界か、さあどっちか。
____政治と選挙と私____
△初めて投票をしたのは鎌倉にいたころだったろうか。たしか、自分と同じ中高一貫私学出身の立候補者がいて、毛嫌いするような政党ではなかったから、彼に入れた覚えがある。
▲逗子の駅前で街頭に立ち続け、自分の銀行口座の内訳まで書かれたペーパーを、他市から通う我ら中高生に配り続けていた「元フジテレビ報道記者」。やがて鎌倉市議を経て逗子の市長になってそれなりに注目を浴びる。
△こちらに引っ越してきてからのこと。二回か三回、つたないペーパーが入った。地元のネットワークの女性候補。なぜか本牧方面にLRTを、みたいな主張をしていておかしい。が、いざ投票となってみると、その候補しか名前を知らない。しかし、地元のことなら地元の地域政党でいいのではないか。あまり自分と相容れない性格もあるように思うが、かといって地元の、地域のことならそんなによからぬこともしねえだろうと一票を投じる。
▲結果、その候補は見事当選。しかし、所属する地域政党は惨敗。このままでは法案をどうにかする最低人数に足らない。そこで、俺が投票した女性市議、離党。泥船から逃げ出すといってはなんだけれども、そうとしか見えない仕業。ネットの噂や新聞記事によれば、民主党への鞍替えを希望しているらしい。それってアリか? 組織のバックアップあって当選したんじゃねえの? 投票する側も、所属政党ってのは大きな判断材料だろう。いや、驚く、と同時に、変なのに投票してしまったと、ちょっと面白がる。でも、その候補は同一選挙区内で、民主党候補を撃破して当選しているわけで、民主党も受け入れるはずがない。結果、会派ひとり状態。……だったのだけれど、気づいたら民主会派入り。こういう世渡りするのがやがて国政に行ったりするのか? 予断を許さない。