『雲の向こう、約束の場所』/新海誠

雲のむこう、約束の場所 [DVD]
 『秒速5センチメートル』は、ギャワー、うわー、このやろー、やめろー、てめー、見せるなー……って具合になったんだけど、この『雲の向こう、約束の場所』はそれほどでなくてよかった。やっぱり背景はすばらしくすばらしいしろものであって、登場人物は少し浮いていたけれども、『ほしのこえ』に比べれば格段によくなってると言える。やっぱり都市、電車、駅、田舍風景、すばらしい。
 が、今回、背景以上にすばらしいものがあった。‘ヴェラシーラ’という名の飛行機。これのプロペラのゆるやかに回しながら進む姿はたいへんよかった。ロケットエンジン? で低空をブワーっと行くあたりも、松本零士の『コクピット』の桜花みたいで泣けた。でも、やっぱりあの謎プロペラがいいな。うん。
 で、ストーリーその他の方は、村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』風味に、新世紀エヴァンゲリオンの諸々風味に、インナー世界系SF(『女王天使』とか、あるいはP.K.ディックもか?)に、えーと、パラレル日本史風味とか、まあそんなところ。せっかく日本を分断させてみたのに、完全に現実日本そのまんまというのはちょっと惜しい。押井守ケルベロス世界みてえにしてもいいのに、とか。いや、西側だけどさ、ちょっとだけそこにナイスなフィクションが欲しかった。でも、馬鹿でかい塔という、あの発想は好きだ。宇宙エレベータかと思った、あれだ。あれはなんとなく好きだ。でも、あんなん造ってるユニオンなる国家がどうなってるの? って点では、普通にロシア人っぽいのが出てきたあたり、やっぱり惜しい。いっそのこと『ベクシル』みてえな謎感を出してもよかったんじゃねえの、みてえな。
 まあ、そのあたりは、そのあたりだ。なんかもう、風景とメカよけりゃいいだろ、みてえな。いや、よかないんだろうけれども、すくなくとも、俺はまあ、今回はあんまりギャーワーにならんかったし(その点、感傷性で物足りないとも言えるか)、そんなところでいいや。じゃあ、またなんかあったら観るよ。

関連______________________

関連日記______________________