2020〜幻の小沢暗殺大作戦〜

1

 イェルサレムの幹事長室には、今日も世界各国からの陳情者が列をなしている。「室」といっても、その威容は歴史上にあらわれた最大の皇帝のもっとも豪奢な宮殿をはるかにしのぐものである。その幹事長室の奧の院にいるであろう人物こそが、世界幹事長・小沢イチローである。その隣には、紆余曲折あってふたたび懐刀として辣腕をふるう藤井ヒロヒサの姿もあるはずだ。
 ときに2020年。世界は小沢民主党によって再編されていた。ここにいたるまで、いろいろの政争があった。誰もがおどろくような連立をおこない、またそれを壊し、ふたたびつなぎ、気づけば世界はこのようになっていた。そして人々は、なにかが変わったような気もするし、そうでもないような気もする、そのようなとらえどころのない気持ちになり、やがては日常に戻っていった。

2

 だが、この小沢体制に叛旗を翻すものたちもいたのである。彼らは、それぞれの立場から小沢をなき者にしようと試みた。それは政治的スキャンダルであり、また、暗殺といった直接的なテロリズムであった。そして、そのうちのいくつかは成功した。
 しかし、小沢はその権力の座からすべりおちることはなかった。目の前で手榴弾が炸裂し、木っ端微塵になった翌日ですら、彼はマスクをかけて平然と人前に姿を現したものである。
 もちろん、このような理不尽さはマスメディアの関心をひかないわけがない。 
「幹事長は暗殺されたのではないですか?」と記者がたずねる。相手は、鳩山由紀夫世界首相である。
「あれはじゃあ、幻だったということで、しましょうかね」と、答える鳩山の額には、いつからか“友愛”の二文字がくっきりとした傷跡として刻まれている。なにか鋭利なナイフで無理矢理えぐられたかのような傷跡である。
「幻が暗殺されたということで?」
「ええ、幻の幹事長が暗殺されたと」
 だがしかし、このようなことが何度起ころうとも、決して諦めぬものたちがいる。彼らは、かつて小沢民主党に敗れ、下野させられたものたちである。このような世界再編の最初の一歩をつくってしまったと、その責を感じるものたちである。自民残党、いままさに、彼らによって最後の大反抗が行われようとしている。

3

 「小沢の本体は岩手州にある。焼石山麓胆沢ダムの湖底深くに沈められている」……その情報は、連立与党に入り込んだスパイよりもたらされた。その人とは誰であろう、野中ヒロムである。彼はまた己の理念のために「悪魔」と手を組み、そしてその裏で、反小沢勢力に情報を流しつづけていたのである。
 最後のチャンス。彼らは口に出さねど、その思いは一致していた。そのために、世界にちりぢりになっていたかつての同志たちが集い、また、小沢をこころよく思わぬものの協力や中立の約束を取りつけた。
 作戦の概要は以下のごとくである。まず、霞ヶ関に駐屯する仕分け作業人軍団の本拠地に対して、大規模な攻撃を行う。これを指揮するのは、政界から姿を消し、フィリッピンに蝶の採集に出かけたきり行方不明になっていた鳩山クニオである。彼は、友だちやその友だちと同盟を結び、いまふたたびここに戻ってきたのだ。
 だが、この東京における攻撃は陽動である。必殺の仕分け人、蓮ホウ将軍以下を釘付けにし、時間を稼ぐためのものである。もちろん狙いは、胆沢ダムの小沢にほかならない……。

4

 今にも雪が降り出しそうな雲である。「防寒に必要なのはレイヤー、重ね着だ」と谷垣サダカズは思った。「いつだってそうなんだ」。ヘルメットのベルトを締め直し、重武装された愛車のデローザに跨る。サイコンの時計がその時を示す。谷垣はスッと右手を挙げる。いっせいにホルンの音が鳴り響く。ヨーデルで鍛えた谷垣の美声が轟く。「進軍ー!」
 焼石山の方々から、一斉に反小沢の戦士たちが姿を現す。世界中から集まった戦士たちである。一方からはキリスト教の敵を叩かんとテンプル騎士団の騎馬兵が押し寄せる。また一方からは薩長の武士たちが御維新をもう一度と斬り込む。歴史は繰り返す。彼らはかつての南部藩の苦渋を味わっていたのである。
 彼らの狙いはただ一点、ダムの堤体の破壊である。一気にダムの水を排水し、小沢の本体をあらわにしようという狙いだ。
 

5

 ダムの警備などはものの数ではない。数人の警備員は騎士団の槍に突かれ、また、「チェストォ!」のかけ声とともに斬り伏せられる。……が、やはり情報は真実であった。ここは、ただのダムではない。ダムの水面が盛り上がり、数えきれぬ数のアームストロング砲が姿を現す。
 絶大な火力。爆発音が山々にこだまし、轟音はやまない。蹴散らされる歩兵、騎馬兵。「これが蒙古のやり口か、卑怯なり!」と言おうとも、なお炸裂はやまぬ。負けずに反乱軍もアームストロング砲を狙い撃つが、次々に水面に砲が現れる。敵兵の姿は見えない。
 だが、大将である谷垣の表情は、まるでほくそ笑むかのようでもある。この表情に気づいたものがいただろうか……。

6

 ダムの水際にひとりの女がいた。近未来くのいちのような装束に身を包んだ彼女こそが、“風車のお百合”こと小池ユリコであった。
 小池ユリコ……またの名を“マダム・スシ”。彼女もまた反小沢運動の闘士であった。だが、その姿は10年前の大規模デモののち、杳として知れなかった。謀殺されたとも、渡り鳥として今は小沢の麾下で密かに働いているとも、さまざまな憶測が流れ、そして忘れ去れた。
 だが、彼女は小沢への、日本解放工作要綱への怒りを忘れたわけではなかった。この10年、かつての伝手をたより、アラブのベースキャンプで雌伏していたのである。その間、戦士としての精神と肉体、技術を身につけた。そして、今、祖国の地を再び踏んだのだ。
 そう、彼女こそが、この作戦の最大のキーである。谷垣もまた、捨て駒に過ぎぬ。密かに入手した秘密通路に侵入し、小沢の本体を直接叩く。……この真の作戦を知る者は、わずかに数人の頭目だけである。
 「反小沢、反日本解放工作要綱万歳」。そう呟くと、小池はダム脇の林の中にあるマンホールの蓋を開け、その中に素速くもぐり込む。蓋を閉めるときは、周りの草を巻き込まぬように気を払う。音もなく梯子を下りていく小池。あたりは漆黒の闇、そして静寂。カタルシスの中、地下深くへ身を沈めていく。
 10分も下りつづけただろうか、ようやく底の気配がある。小池は暗視ゴーグルを装備する。盟友・ドクター中松の発明品である。かの序の装束や武器も、すべて彼の手によるものである。
 小池は体を180度回転させて通路をうかがう。人影もなにもない。単なる闇が広がるばかりだ。音もなく通路に降りる。
 その時だ、暗いトンネルに一斉に明かりが灯る! 目の前には、先ほど見えもしなかった人間の姿があった。どこから現れたのか? そしてなぜ、この光に目がくらまないのか? 一瞬パニックに襲われる小池、その動揺をゲリラ闘士としての鍛錬によって鎮めようとしたそのときである。
 「そこまでだよ、小池さん! あなたも精神分析の対象だな!」
 数人の僧兵姿の男を引き連れて、一人の男が立ちはだかった。岩手の番人、達増タクヤである。

<未完>

※この電波文はフィクションであり、実在の歴史、人物、政党、組織等に一切関係ありません。以下のテキストより霊的な影響を受けて自動執筆されたものであり、すべての責任は著者の守護霊にあります。