作品は描ききったところで終わったほうがいいのです〜『海のアリア』萩尾望都〜

海のアリア (1) (小学館文庫)

海のアリア (1) (小学館文庫)

海のアリア (2) (小学館文庫)

海のアリア (2) (小学館文庫)

 萩尾望都の『海のアリア』を読んだ。萩尾望都はすばらしい上に、舞台が逗子〜鎌倉あたりで、元地元民としてはうれしい限りなのである。話の方はややユーモラスなところもあるSFであって、えーと、ネタバレになるとよくないので書かないけど、ともかくラストの続きをちょっと読みたい、と思うのだ。この奏者と楽器のコンビを、と。が、そこんところでスパッと終わる。
 そう、これだよな、などと思うと、清水玲子の巻末エッセイにそのへんのことが触れられていた。作家には分けてふたつのタイプがあって、それが「キャラクター重視型」と「物語重視型」だという。『ロミオとジュリエット』でいえば、前者の場合、人気キャラのロミオとジュリエットがずっと出てきて活躍する。後者の場合、物語のためにはサクっと殺したり、狂わせたりする、と。それで、萩尾先生は圧倒的に後者だと。萩尾望都のエッセイが引用されていて、こんなふうにある。

編集「読者が読みたいのは『青春の××』の続きと、あの主人公なんだ。読者の希望のあるうちは、続けるのがプロだ」
作家「いいえ、作品は描ききったところで終わったほうがいいのです。私は別に、描きたいテーマがいろいろあるので、別な新しい作品を描きます」

 この作家はたぶん萩尾先生自身で、「ポー」を終わらせた時期に編集サイドや読者から同じような意見が多数寄せられたであろうことは容易に想像できる。

 言うまでもないが、清水先生もべつにキャラ重視と物語重視の優劣を述べているわけではない。「キャラクター重視型の素晴らしいまんがはたくさんある。数で比べたらそちらのほうが多いかもしれない」とある。俺もそうだと思う。
 でも、同時に、キャラクター重視が多いであろう少年漫画を読んで育ってきた人間としては、連載が長期化することで作品が劣化というか、だんだんつまらなくなってくるようなイメージも強くある。「人気があるからやめられない、やめさせてくれない」パターン。『サルでも描けるまんが教室』なんかでも大きく取り扱われていて、昔からある話だろうが、そのあたり。竹熊健太郎もこんなことを書いていたっけ。

ブックオフマンガ喫茶の台頭を許したものは、80年代から顕著になったマンガの長期連載化です。いつまで経っても主人公が試合していて、ほとんどそれだけで40巻も50巻も単行本が出続けるという現状は、狂っています。これではマンガが売れなくなるのは当たり前です。俺みたいなオタクはともかくとして、普通の人は同じ題名のマンガで本棚を全部埋めたりしません。

http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/post_fbbd.html

竹熊氏 自分が高校生の頃は、長期連載なんて無かった。
20巻以上続いているマンガはまれで、『サイクル野郎』(少年キング)は例外的に長かった。

http://kowloonet.org/blog/2010/09/-2010911.php

 俺が少年ジャンプを読み始めたころ、長期連載といえば50巻を突破していた『こち亀』が例外中の例外で、それで充分「すげえ長期連載」というネタになり得ていたと思う。が、最近の人気漫画といえば、40巻突破くらい当たり前という感じだろうか。なんだろう、『ドラゴンボール』についてさえ、えらく連載が引き伸ばされたという印象があって、さらには40巻とか越えて「さすがにドラゴンボールこち亀でもないのに例外的にすげえ長くなったな」みたいに思ったわけだけれども。あと、最近どっかでトキワ荘のビッグネームについて「大ヒット作品がそれぞれたくさんあってすごい」みたいなのを読んだけど、それぞれの作品が長期連載作品であったならば、さすがにそれは無理だったろう、とか。
 まあ、だからといって、連載が長いからつまらないとか、あるいは編集の意向で作者がいやいや描いているわけでもない。わけでもないし、俺だって好きな漫画が長く続いたらうれしいだろうし、みたいなのはある。ある一方で、ひょっとしたら、その漫画家のもっとおもしろい面、べつの面を見られる機会を逃しているとしたら惜しいとか思わないでもない。あと、「作者か自分が死ぬまでにこれは完結するのか」というようなのもなんとなく。
 ただ、このあたりはもう、すごく抽象的というか、ぼんやりしたイメージで、個別の作家論、作品論とかに踏み込むどころか、単純に最近の漫画読んでいないし、あるいは数字や仕組みからマンガ業界を見るようなネタも持ち合わせていないんだけれども。だけれども、なんとなくそんなことを考えた。あるいは、続けようと思えば相当に長く続けられそうな『けいおん!』のサクっとした終わり方だとか、終わり方について名前の出てくる『あずまんが大王』のことであるとか、そんなんも思い浮かぶわけで。なんかこう、現代のキャラものの最高峰ともいえる作品の作者が、ストーリー志向だったかとか。あずまきよひこも、『よつばと!』について『あずまんが』終わらせたことの意義とか決意みたいなのを書いていたと思う。
 と、このあたりはもういろいろな視点もあるだろうし、俺には正直よくわからん。よくわからんが、今現在の俺の漫画に対するスタンスというか、あるいは購買力とかそういうものを考えると、なんかこう、今から超長期連載ものに手を出すのは難しいし、萩尾望都は偉大だな、とか思う。おしまい。

関連_________________________________

ヒストリエ』とか『チェーザレ』とか、登場人物の歴史考えたらこの先どんだけ、などと。あと、若干『よつばと!』がどんだけ続くのかも気になってる。いずれもクソ好きだが。『ベルセルク』は途中まで追っていたが、今はシャットアウトしている。完結したら読む。『バスタード』は気づいたら買い足していたけれども、最近は中身をめくっても全部一緒に見えて、読んだか読んでないのかわからないし、要するにもう興味を失った。残念。