日本語ラップの入り口で

 冬はラップの季節だ、というような気がするのです。

 とかいったところで、ラップ、日本語ラップのことはよく知らない。興味を持ち始めたのは最近のこと、少なからぬ人と同じように「日本語ラップなんて」と馬鹿にしていた10代。あのころの俺はロキノンの洋楽かぶれ少年だった。20代も終わりにさしかかって今31歳、この年になってなにからどう聴き始めればいいのか途方にくれているのです。
 いや、しかし、べつになにも気にする必要はない、昔のように好きなアーティストを辿り、アーティストからアーティストにたどり着き、またテレビやラジオで新しい音楽を知り、って、どうもそのサイクルがうまくいっていかない、音楽を摂取する速度とその消化が噛み合ってない。

 次から次へと知りすぎてしまって聴くことが追いつかない。たくさん口に詰め込めば消化できない。昔は情報も少なかったし、買えるCDも限られていた、音楽雑誌を読んだところでその音を聴く経路が少なかった。たまにアルバムを買えば、CDプレイヤーに鎮座してなんどもなんども繰り返し聴いてあたまに刻みつけていったものだった。
 今はといえばあるアーティストの経歴、インタビュー、即座に手に入り、聴きたいと思えばYouTubeでとりあえずチェックできたりもする。使える金も中学生の昔よりは増えたし、中古とオンラインの組み合わせの効果は絶大、安く手に入ってしまう、あるいはレンタル、有料配信。けれど、よりどりみどりになってより選びにくくなる不思議。

 誤解無いようにはっきり言っておくが、昔がよかっただの、今の音楽の消費のされ方は軽すぎるだのという話ではない。真に音楽好きであればレコードのころであれCDのころであれあらゆる努力と投資を惜しまずたくさんの音楽を知り、深く聴き、また知識を蓄えていったことだろう。ただ、俺についていえば、(あらゆることと同じように)そこまで多く、深くのめり込みはしなかったということだ。むしろ、流行のJ-POPを追いかけないぶん、音楽にかける金が安上がりで済んだと思っていたふしすらあった。個人的に状況が変わり、個人的に戸惑っている。
 というわけで最近、いや、けっこう長い間、どう音楽を聴くかそのあたりに戸惑いを感じ続けている。日本語ラップについていえばどこが入り口だったか、RIP SLYMEをなんの脈略もなく好きになったところがあって、ただ、そこからべつに飛び火しなかった。むしろ、電気グルーヴ(これは昔から好きで)とスチャダラパーからスチャダラパーというライン。それとも、どこからかHALCALIが入ってきていたような気がする。

 しかし、「日本語ラップ」というものを意識したのはRhymesterのこの曲だろう。なんかのCMに使われていて、「かっけー」って思って、歌詞から検索してたどり着いた。ラジオも競馬中継くらいしか聴かないものだから、宇多丸の名前も知らなかった。
 そこから、Wikipediaとかでいろいろ読んだりしはじめたのだった(日本のヒップホップって高学歴者多いな!)。そうか、いとうせいこうかっこいいな!

 この曲はなんかのコンピレーションアルバムみたいなのに入っていた。まあともかく、それで、たとえばスチャダラパーとかTokyo No.1 Soul Setとかは一味だったのか、などと知ったりもして。ちなみに、今まで述べてきた名前の中でTokyo No.1 Soul Setは一番最初にCDを買ったことがあって、高校生くらいのことだったと思うが、中古のCDをジャケ買いというかパッケージ買いしたのだった。そのときは後に続かなかった。
 と、ぶつぶつ呟くのも面映いというところがあって、まあしょせんは焼付け刃、Wikipedia知識の底の浅さというか、いや、それよりも何度聴いたんだ俺はというような意識。今さらリアルタイムで聴いいてきた人らに追いつけたりするはずもないが、もっと知ろう知ろうとすると逆に聴くことが薄まる矛盾みたいなところ、どうしよう。どうも入口あたりでうろうろしてしまう。
 さらにいえば、俺のiPhoneの中はアニメソングという最近取り憑かれたべつの領域がそれなりに詰め込まれていて、その上で急に好きになった相対性理論をアホみたいに繰り返し聴いたり、いきなりPerfumeが横入りしてきたりと、なにかと忙しいのだ。正直言って耳と脳みその数が足りない。デバイスにいくら曲詰め込めても、こっちの容量が足らない、人数足りない、人を雇うわけにもいかない。趣味は音楽だけではない。……などと贅沢言ってられんのも、今のうちさ。そのうちつけが回ってくるぞ、否が応にも。

 と、急にこんな曲が浮かんだりして、ケツから火を吹いたりしてまったくとりとめのないままおしまい。
 ああ、ただ、なんだ、最後にさ、世の中にはいろいろ「文章がうまくなるためには」みたいなライフハックが溢れているけれども、そんなん日本語ラップ聴けばいいだろとか思うんだけれども、どうだろうか。まあ、そんなん言ったところで、俺がうまく書けなきゃ説得力がない。なんにもない。ただ、なんかこう、日本語ラップ(という用語がどこまでを指すのか、なにを指すのかもようわからんのだけれども)って、言葉に対してすげえ向き合ってる感あるし、ほかのロックやポップに比べると、その歌い手の、なんつーのか私小説みてえな、カラオケにしにくいというか、代替きかせねえよ、みてえなところとか、なんかそこんところがおもしろいと思うわ。

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 どういう面々がどういう文脈で集まって騒いでんのかしらないけど、これすごい好き。

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