どこまでイン・マイ・バックヤード

 がれき処理の前の段階のなんかの話だったか、本牧あたりに放射性物質を含むなにかを埋め立てるとか埋め立てないとかで揉めたりしていたと思う。そうだ、去年の話だ、おれがまだ強迫性障害ジョギングなどしていて、目と鼻の先の産業道路など走っていたころのことだ。
 そのときおれはこう思ったものだ。「いいよ、じゃんじゃん持ってきて埋め立てちまえ。あと、保管料とか月千円でもくれるなら、ドラム缶の一個でも預かるよ」と。まあ、べつにたいした放射線量じゃねえだろうし、万が一たいした量だったとしても、独り身の希死念慮者、いっこうにかまわねえよ、と。
 ……というたいへん歪んだ個人の意見として割り増しするなり、割り引きするなりして読んでもらえればいいが、たとえば神奈川県がれいのがれき処理受け入れるのもありだろうし、今まで原発をあっちに押しつけてた分、ちょっとは引きうけようや、という感じ。
 ただ、一方で、長崎とかで処理受け入れ反対なんかのニュースを見ると、危険性以前に「そこまで遠くに持っていくのは効率的なのかしら」と思ったりもしている。まあ、どれだけの速度で処理しなくてはいけないか、そのためには長崎まで持っていく必要があるのかないのかしらんので、これは思いつき。
 てな具合なんだけれども、上にあるように、「おれは神奈川県民の一人としてはがれき受け入れに賛成するよ」って表明しようとすると、ちょっと喉に詰まって出にくいところがある。それは、具体的な処分地が横須賀市だということだ。上のNHKの記事を読んで詳しい事情を知ったが、それ以前から思っていたことだ。
 なんというのだろうか、ここ横浜市中区から横須賀となると、自転車脳の恐怖であれば朝早く出かけてお昼には帰って来られるくらいの距離ではあるものの、やっぱりそれだけの距離はあるわけで、ママチャリで10分というわけにはいかない。NIMBYという言葉があるが、はたして横須賀に対して神奈川県民としてIMBYオッケーと言える権利があるのかよ? と。
 となると、横須賀以上にマイテリトリーの感のある本牧埋立地にしたって、間門あたりのやつにしてみたら、竹之丸(年末、至近距離に引っ越して竹之丸住民じゃなくなったけど)の方のやつがなに言ってるんだ、と言われると、むむむ……となってしまう。
 いや、震災がれきの放射線なんて非常に低レベルだから問題ないですってね、なにかしら信頼できそうな人の説明引っ張ってくることだってできるだろう。おれはとりあえずそれに信頼おいているわけだし(希死念慮とかはさっ引いてね)。そんで、がれき云々以前に、ひょっとしたら西日本や海外からしたら神奈川も完全に汚染地扱いだぜ、とかさ。
 でも、やっぱりおれは算数と理科よくわかんねぇし、科学のことを自分の言葉で語れないし、やっぱり距離近けりゃ嫌なもんだろうし、なんか政府の言うこと、行政の言うこと信用ならねえって気持ちもわかるしさ。
 なんかそんなモヤモヤもあって、こう、自分はがれき受け入れ賛成だし、アホみたいな差別と不安を助長するようなクソ言説に対して嫌悪感を抱く一方で、本当におれのバックヤードに受け入れるわけじゃねえのに言っていいのかみたいな思いもあるわけよ。
 なんつーのか、どうしても現実の距離というものは存在するし、逆に観念的な言い方になっちゃうかもしんないけど、それは血肉や五感に根ざしているものであって、その感覚や感情みたいなもんに対して、合理的説明みたいなもんがどんだけ通用するのかみたいなむつかしさ、とかさ。それこそ、科学の言葉を使える上に、ハートのありそうな人たちが何を言おうと、もう聴く耳をもってくれない、聴いても反発する人もたくさんいるわけでさ。
 そんで、こんなにバラバラになってしまった社会にたいして、「絆」なんて言葉はいかにも頼りないし(どっかで書いたが、「糸」の右側がショボーンってしてんだよ。気合がたりねえ。糸は切れる)、もうこれは駄目かもしれんね、みたいな気持ちはある。あらためて言うが、おれは元より人との繋がりを回避するパーソナリティー障害持ちだし、社会運動もボランティアもする気もねえし、おれが今日飯を食えるのか、明日飯が食えるのか、そればっかりのゴミで、守るべき家族も、託すべき未来もなんにもねーんだけど、まあそんな人間からもそう見えるぜってことで。
 まあなんだろう、しかし、おれが「ドラム缶一個引きうけるぜ」なんていうのも、まったくあり得ない話だし、傲慢で失礼か。ひょっとして、今後俺があんがい生に執着しちゃったりしたら、こっちから行ってるくらいじゃなきゃあかんか。さいわい、原発には雑巾拭きやゴミ集めの仕事があって、配管の技術や思いものを運ぶ膂力とかなしでも、そういう雑用みたいなのもあるらしいし。そのくらいならできるだろうか(……念のためいうと、おれがこの記事を読んでいちばん興味を引かれたというか、安心したのはそこで、まったくの本心)。日の出町の中洲のカレー屋あたりの看板もどんどんでかくなってるしな。まあ、いずれ否応なくここにもいられなくなるだろうし、もう全部おわってたんだ。それじゃあ。