おれのオムライスにモンブランのっけたのは誰だー!?

※以下は「うそ、おおげさ、まぎらわしい」表現をモットーとする人間の書いた個人的な感想です。

 おれのオムライスにモンブランのっけたのは誰か? このモンブランののったオムライスを作ったやつだ。なんでそいつはオムライスにモンブランのっけたんだ? オーダーをとった店員がそう伝えたからだ。なんでその店員はオムライスにモンブランのっけたオムライスを作るようにこのモンブランのったオムライスを作るように伝えたのか? オムライスののったモンブランを注文した客がいたからだ。じゃあモンブランののったオムライスを注文したやつって誰だ?
 おれじゃねえか!
 自業自得って言葉あるけど、なんつーの、自業自損事故っつーの? そういう言葉ねえの? よくわかんねーけど、ああ、まったく、まったくおれの、おれ自身の失敗だ。結果論だが失敗だ。ことこれに関してはおれが悪い。
 いや責任の所在とかそんなことはどうでもいいんだ。そういう問題じゃないんだ。ともかく、何が起こったんだとか、何が起きているのかとか、やがてどうなるのかとか、そういう問題じゃないんだ。だれがだれを裁くとか、そういう話じゃねえんだ。ただ、オムライスの上にモンブランがのってて、想像以上にオムライスの上にモンブランがのってるって味だったんだ。
 それでおれの胃の中はクロンシュタットの水兵みたいに反乱したんだ。「これはおかしい、ぜったいにおかしいぞ」って。おれはその反乱をすぐさま目の前で一緒に飯食ってる女に打電(iPhoneのメール)したんだ。「いま、おれの胃の中がひっくり返ってます」って。女はなにも言わずに一口おれの皿からモンブランとオムライスとデミグラスソースをスプーンで掬って食って……目をそらした。
 でも、おれは出されたもんはちゃんと食うんだ。そういうもんなんだ。それがおれのルールだし、絶対なんだ。食い物を残すってのは、やっちゃいけないことなんだ。でも、あまりにも救いがない戦いのようだった。モンブランとその下のマッシュポテトだけ先に処理すればたんなるデミグラスソース味のオムライスになったかもしらんが、おれはわざわざオムライスのうえにモンブランがのってんだからって、崩して全面展開させちまったんだ。食っても食っても甘いんだ。そもそも卵ってのはどっちかっていや甘いもんだし、中身はバターライス、デミグラスソースだってトマトソースほど酸味があるわけでもない。それにこれはオムライス、丼ものみてえに紅しょうがや漬物の助けがあるわけでもない。分け入っても分け入っても甘ったるい、だけど脂っこい米とデミグラスソースの山。胃が、「これはなにかおかしい!」ってしきりに作戦中止を要求してくる。旅順要塞を前にした乃木大将はこんな気持だったかと思いを馳せる。勝栗じゃあない、負栗なんだ。ああ、人類必敗の歴史。
 しかし、そもそも、なんでおれはモンブランののったオムライスなんて注文したんだ。そりゃだって、今の時期のおすすめメニューが三つあって、その真ん中にあったんだぜ。そんで、ヒャッハー、こんなの見たことねえ! って思ったんだ。馬鹿か。ああ、好奇心は猫をも殺す。猫殺しは猟奇殺人の予兆だってんだ。でも、なんかこんなもん見たことないし、マッシュポテト使ってるって書いてあるし、まあ見た目モンブランみてえなのかと思ってたんだ。「デザート上に乗っけました」って、そこまでじゃねえだろうって思ったんだ。でも、ちゃんと贅沢な甘みを強調してたから、おれは騙されたわけじゃねえんだ。勝手にへんな予断をくだしたんだ。それで、出てきた実物見て、メニューの写真ほどモンブラン盛ってねえなって思ったくらいなんだ。でも、いっそのこと、モンブランのせわすれて出てきてくれたほうがよかった。タイムマシーンだ、タイムマシーンをよこせ! もっと無難なやつにしろ!
 いや、だがね、少し、言わせてほしいが、いや、注文したやつが言ってもなんの説得力もねえが、なんでオムライスにモンブランのっけたんだ? いや、シェフの気まぐれで、ってレベルじゃないチェーン店でのことだろ。なんか事前のリサーチとか、役員の試食会とかやんじゃねえのか? それを全部クリアしてきたのか、こいつは? それとも、社長かなんかが「うめー、これうめー、毎日三食これでもいいわー!」って言ったのか?
 ……いや、あるいは、おれの味覚がおかしいのか。それとも、たまたま自分で気づかないていどに胃の調子が悪かったところでこれを食ったのか。そのどちらかもしれないし、その両方であるかもしれない。
 まあともかく、おれはこれを美味いともまずいとも言えない。その評価軸以前、あるいは以外のところでやられてしまった。モンブランののった甘いオムライス。昔、西原理恵子が恨みシュランのスッポンだったかなんかの回で使っていたと思うが、「食い物に負けた」というやつだ。ただ、おれは米一粒完食した。でも、その後に「このお薬は高血圧症・狭心症不整脈治療および本態性振戦治療剤です」って裏面に書いてある薬を水で流し込んだ。そのくらい、おれの動悸はひどかった。おれはそのくらい、食い物に負けた。おれはわりとちょっと変わったもの、たとえばモンブランののったオムライスを注文したりすることは多いが、これくらい食い物に負けたことはなかった。だから自戒としてここに記す。
 そして、あらためていうが、これはおれの物語だ。あんたはあんたでおれの言うなにかを確かめる権利もあるし、確かめない権利もある。そして、あんたの結果でおれの言うことを肯定する権利もあるし、否定する権利もある。自由言論万歳! だけど、あんたが何を書こうが、おれはそれを読みはしないだろう。おれはもう、思い出したくないんだ。だから全部ここに吐いちまった。わかったか? じゃあな。