案外おれたちは『それ町』のような時間を生きているのかもしれない

それでも町は廻っている 11 (ヤングキングコミックス)

それでも町は廻っている 11 (ヤングキングコミックス)

 長く読んで下さっている読者さんの中には薄々お気付きの方もいらっしゃると思いますが、この漫画は時系列がバラバラです。
「あとがき」より

 「恐怖それ町」ということで怖い話ばかりを集めたという『それでも町は廻っている』。アニメで存在を知ったのかどうか……、アニメが先立ったが(嫌な誤変換だ)、そりゃまあ薄々気づいてはいたわけだが。つまりは、主人公たちの高校三年間の一部を切り取った一話がランダムに提供されているというスタイルだ。『ちびまる子ちゃん』、『サザエさん』、『ドラえもん』などの、登場人物が一向に成長しない永遠の四季を生きるのでもなく、『けいおん!』や『あずまんが大王』のようにちゃんと年月も重ねていくわけでもない、そういう……スタイルだ。「……」の間に「新しい手法だ」と書こうとおもったけど、漫画知識がないのでやめた。
 ただ、「そういうスタイル」、「新しい手法」というより、この石黒正数の作風を考えるに、「そういう仕掛け」、「罠」、「トリック」と書いてみてもいいかもしれない。そう考えると、この11巻のなかでは 第84話「夕闇の町」が一番怖いのだけれども、どうだろうか。そしてほら、タイトルを見なおしてみるんだ、なにが「それでも」なんだ? 歩鳥が一回死にかけたあの件だけで済んでいるのか……?
 まあいい、また時系列の話に戻る。おれたちは、『サザエさん』時間ではなく、『けいおん!』の方を生きている……ことになっている。あるいは、大多数の人間が小学校、中学校などと年月の階段を登っている間はまったくそのとおりだといっていい。
 が、社会人だかなんだかわからぬが、突然タイムリミットのない、あるいはそれが遥か先、もしくはぜんぜん見えないところに放り出されてからはどうだろうか。
 主語が大きい。おれは大学を中退して引きこもりになり、今は一応社会人のふりをしているが、カレンダーのない人生はそのままだ。同じ会社で定年まで? なんてことはありえない。おれが辞めるのではなく、会社がなくなる。
 そしてまた、おれは年月に押し出され、流されるままに適当に息をすったりはいたりしている、なにか磯辺の生物みたいなものだ。だから、40歳までにこうなりたいだの、65歳までにはいくら貯めたいだのという目標なり目的なりとも無縁だ。むしろ、今日は飯が食えたが、明日はどうだ、明日は大丈夫だが来月はどうだ、再来月は……? というのがリアルだ。目の前のことで手一杯だ。
 そういう中にいると、積み重なるものものなく、広がっていく世界もなく、昨日が今日でも、今日が明日でも、まあまったく代わり映えのない時間を過ごしているといっていい。いつも見通しなるものもなく、ただ不安に怯えている。だから、いきなり2年前の今日が明日来ても大した違いはない。
 地上とは思い出ならずや。
 稲垣足穂が急に出てくるような話じゃあないけれども、おれも歩鳥たちと同じように、ランダムの時系列、その記憶の中を生きている幽霊のようなものやもしらん。柴田元幸に「死んでいるかしら」というエッセイか何かがあったが、そんな想像をしてみるのも悪くない。
 おれは現実から逃避したいし、いずれ死ぬということも、とりあえず台所のコルク抜きの入っているあたりにつっこんで、しばらくは忘れていたんだ。そういう気持ちになるくらいいいだろう、たまにはね。

>゜))彡>゜))彡

……本当は怖い『よつばと!』の方がよかったかな。

……アニメも好きだったけれど、紺先輩の中の人が引退してしまったのだっけ。『たまこまーけっと』のオープニング見るたび、こっちの「DOWN TOWN」を思い出す。

>゜))彡>゜))彡>゜))彡

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