大観光戦艦クイーン・クイーン&クイーン・エリザベス22世号の最期

大観光戦艦クイーン・クイーン&クイーン・エリザベス22世号、略してQE2は順調に横浜港を目指していた。出迎えの横浜帝国海軍駆逐艦ポンセと同級パチョレックを従え、順風満帆の航海と思われた。これから迎える最後の関門だって悠々と乗り越えられる、そう大観光艦の艦長以下すべてスタッフがそう信じていた。関門……横浜のあの橋ををいかに通過するか。QE2の全高52.2m、対する中村橋は30mにも満たない。

すべてのシミュレーションはゴーサインを出していた。いよいよ橋が迫る。艦長は予定通りの位置で指示を発する。「荷重力超電子装置稼働!」。船体の四カ所に設置された巨大回転体がスピンを始める。徐々に海の中に沈み込んでいくQE2。中村橋よりも低く潜り込む。「いける!」。デッキに出ていた観光客も、橋やそのまわりで見守る野次馬もそう思った。

が、その刹那、ボンッという音ともに後部の装置が爆炎をあげる。船体は前方に傾き、つんのめるような形になった。「重力装置全停止! 全速後退!」船長はそう叫ぶ。しかし、時すでに遅し、QE2は300mを誇るその巨体を海面に対して、実に垂直の姿勢になっているではないか。デッキの客は次々に海に放り込まれていく。船内のカジノでは手本引きの繰札が飛び散る。もはや暴走する船を止めるすべはなかった。

ゆっくりとQE2の船体後部が中村橋を破壊するのを多くの人間が見た。QE2は真っ逆さまになっていた。ガレーの漕ぎ手たちは船の一番上に。船長は一番下に。一等客室は水に浸かり、三等客室が高みの見物だ。今やオールを持った肉体労働者たちが船を占拠している。最高級のボルシチを食らっている! ポチョムキン!

これに歓声を上げたのが寿町族だった。老いて貧しく、しかし社会への鬱憤を失っていない彼らは、崩れ落ちかけている中村橋を伝って、次々に船内に入り込んでいった。獲物はいくらでもあった。こんな機会二度とあるものじゃあない。やがてはあらゆる横浜人が船内に入り込もうと、橋に人々が殺到した。金持ちどもから奪い取れ!

そのときである。湾内で待機していたポンセの76mm速射砲が火を吹いた。狙いは殺到する横浜人暴徒であったとも、QE2前部重力装置とも言われているが、真相は闇の中だ。ただ、結果はいずれでもなかった。QE2のどまんなかに吸い込まれていった。いかに大観光戦艦といえ、船底の装甲は直撃に耐えるほど厚くはない。すぐに起こる大誘爆。燃える船体は中村橋にかぶさるように倒れる。船は真っ逆さまになって哀れな姿を晒す。湾内には油と、浮かぶ死体……。QE2は一週間燃え続けたと伝えられている。

この惨事以降、横浜港に入稿できるのはシーカヤックのみになった。QE2の残骸は埋め立ての素材となり、今の間門あたりの地面になっている。当時のことを知る人も少なくなった。今の子供達は、横浜が独立国だったことすら知らないという。