ウィリアム・アイリッシュ『夜は千の目を持つ』を読む

僕は彼の作品の中では『夜は千の目を持つ』が最高だと思っています。あれ、何度読んでも背筋がちょっと寒くなります。

村上さんのところ/村上春樹 期間限定公式サイト

 期間限定村上春樹のサイトを読んでいたら、ウィリアム・アイリッシュの名前が出てきた。すぐにおれの頭に浮かんできたのは田村隆一だった。ウィリアム・アイリッシュというと田村隆一のイメージがある。田村隆一の探偵小説語りの中に出てきたような気がする。詩の中にだって出てきたような気がする(http://web1.kcn.jp/tkia/trp/039.html)。そして、田村隆一を介してのウィリアム・アイリッシュという名前の響きには、どこかアイリッシュ・ウィスキーを思わせるところがあって、ウィスキーといえば村上春樹でもあって、ちょっと読んでみるか、と思うたのだ、『夜は千の目を持つ』。ジョージ・ホプリー名義で書かれたらしいが、知った話か。

「金あるか」というのが、男のふてくさったあいさつだった。
「あの馬、だめだったの?」が、おこった返事だった。「だから言ったじゃないの! 一度ぐらい勝てる馬を買えないの?」
「おれだってそのつもりでやってるんじゃないか。なんだと思ってるんだ」

 で、この作品は探偵小説というか、なんというのか、若い警察官が自殺しようとする若い金持ちの娘を助けるところからはじまる。若い女には父親がいて、それが飛行機で出張しようとしたら、雇ったばかりのメードがヒィッってなって、なんでもプレコグ(なんて言葉は使われてないけど。あと、上に引用した部分は予知とはまったく関係ない箇所です)の知り合いが事故を予知したからおやめ下さい……ってなって、結局それは回避されるんだけど、その後も予知者の言うことは当たりつづけ、なんだかんだあって父親の死が予知されてしまったのだった。と、このあたりまでは書いていいのかな。いいか、べつに。
 そんでまあ正直言うと、のめり込んで読むような感じはなかった。というか、半分くらい読んだところで「まあ、いいかな?」と思いすらした。まあ結局全部読んだわけだけれど、半分くらい読んだところで「まあ、いいかな?」と思われるなんて、探偵小説にとっては屈辱じゃあないですかね。すみません。で、それは翻訳が「古っぽく」なっているせいもあるのかもしれないし、おれがもっとスピーディで、暴力的で、それでいてよくわからない世界の通底をごろんと放り出してくるような、アイリッシュより後の(探偵)小説を読んでしまってるせいもあるかもしれない。読む速度(単純にページをめくる速度ではなくて……)と作品がしっくりきてないなって感じがした。もっと、優雅に、暖炉のかたわらで安楽椅子にでも座って(そんなもの安アパートの部屋にはないが)、上質のスコッチでもちびちびやりつつ(安ウオッカくらいしかないが)、パイプでもくゆらせながら(パイプなど吸ったことないが)、図書館の返却期限とか考えないで、ゆっくり読み進めるもんなんだろうな、とかね。まあそんなところでした。おしまい。

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スコッチと銭湯 (ランティエ叢書)

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もし僕らのことばがウィスキーであったなら (新潮文庫)

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