ジョン・ファンテ『デイゴ・レッド』を読む

デイゴ・レッド

デイゴ・レッド

 僕は食料雑貨店の主人が嫌いだった。母さんは毎日、この店まで僕を買い物に行かせた。店に足を踏み入れるなり、主人の挨拶が僕の息を詰まらせた「よう、ちっちゃなデイゴ! 何が欲しいんだ?」こいつが憎かった。ほかの客がうろついているとき、僕はけっして店のなかに入らなかった。他人の前でデイゴと呼ばれることは、ぎょっとするような、ほとんど身体的な侮辱だったから。そんなとき、僕の胃は膨らみ、捻れ、僕は自分が裸でいるような気分になった。
「とあるワップのオデュッセイア

 ジョン・ファンテといえば『塵に訊け!』のジョン・ファンテである。『塵に訊け!』以外に作品があることなど想像していなかったし(失礼な)、そいつが図書館の本棚に邦訳されて存在してるなんて思いもしなかった。その上、この短篇集『デイゴ・レッド』はわりと1940年代アメリカで高評価を得ていたんだから、「そうだったの」という感じ。
 『デイゴ・レッド』のデイゴはべつにアメリデイゴの赤い花と関係あるわけじゃなく、サンディエゴのデイゴ。そして、イタリア系移民なんかの蔑称。「デイゴ・レッド(dago red)で、そいつらが飲むようなイタリア産の安ワインのこと、らしい。
 作品はといえば、そんな「ちっちゃなデイゴ」だった著者の少年時代のことが綴られている。そういう短篇集。活き活きとした、というより生々しい彼らの父や母、家庭、社会が描かれている。レンガ積み職人の父に、寡黙につきしたがう母に……と。
 というわけで、まあ正直にいうとパーッと読んだんだけど、パーッと読めないくらいなんか引き止められる部分や作品もあったり(父親が、かつて母に求婚したことのある独身男に結婚相手を強引に引き合わせる話とか)、まあいいんじゃないでしょうか。というか、『塵に訊け!』もずいぶん前に読んで中身あんまり覚えてないな。また読もうかな、って、たぶん読まないんだけど。おしまい。

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塵に訊け!

塵に訊け!

……『塵に訊け!』の感想文を探したらなかった。そんなに昔に読んだのだっけ? たしかDHCから出てた。