- 作者: いとうせいこう
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2015/02/06
- メディア: 文庫
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今、3.11。とくに意図があって手にとったわけではない。とはいえ、おれには3.11について未だにひっかかるところがある。あれだけの大惨事がありながら、少なくとも南関東に住むおれには直接的な影響が続いているわけではない。日本経済にしたって、リーマンショックとやらの方が影響が大きかったみたいだ。そして、みなとみらいなんて、年末にオフイス・ビルの全灯ライトアップなんてやりやがって、あんだけ電気をどうにかしなきゃってなってたのはなんなの? というような気持ちにもなる。
とはいえ、もうそれは過去のことになっているのも確かだ。おれは基本的に物事を覚えることが苦手な人間だから、「何年前?」といわれても答えられない。それが正直なところだ。しかし、3.11という数字の列だけが頭のなかにある。
「死者と共にこの国を作り直して行くしかないのに、まるで何もなかったように事態にフタをしていく僕らはなんなんだ。この国はどうなっちゃったんだ」
そして、おれは今になってこの小説を読んだ。そして、そのときの死者のことに思いを巡らせた。いくらかは。
だが、正直なことを言う。それよりもおれは、おれが死ぬことと、愛する女が死ぬことについて頭がいっぱいになった。統計的な寿命というやつを考えたら、おれよりふたまわり上の女が先に死んでしまう。精神疾患を考えたら、おれが先に自殺してしまう。いずれにせよ、桃園の誓いでもあるまい、同じときに死ぬことなんてほとんどありえないことだろう。それを思って、そればかり頭をよぎって、おれはこの『想像ラジオ』を読んだ。死者から電波は届くのか。死者としてだれに電波を届けるのか。それはあるものなのか……。想像を巡らせてみるのもいいかもしれない。いつもそれで頭がいっぱいになってしまっては、狂気である。だから、ときどきは。