『人類の未来 AI、経済、民主主義』(吉成真由美インタビュー・編)を読む。

 

人類の未来 AI、経済、民主主義 (NHK出版新書)

人類の未来 AI、経済、民主主義 (NHK出版新書)

 

インタビュアーはマサチューセッツ工科大学卒業、ハーバード大学大学院修士課程終了、元NHKディレクターの吉成真由美さん(追記:しかも利根川進さんと結婚しているという)。だれだか知りませんでした。そして、インタビューイーは……上のAmazonのリンクに載ってる面々。はっきりいって、知識階級の人にこの人選がどういうイメージを与えるか、おれにはさっぱりわからん。「マルゼンスキーレイデオロ、ホロトウルフ、インティライミランニングフリー」みたいなよくわからない組み合わせなのかもしれないし、好メンバーの有馬記念の出走表みたいに見えるかもしれない。ちないに、チョムスキーは読もうとして挫折したことがある。カーツワイルちょっとだけ読んだような気がする。フリーマン・ダイソンはこないだ自伝を読んだばかりだ(その影響で本書に手を出したのだが)。

フリーマン・ダイソン自伝『宇宙をかき乱すべきか』を読む - 関内関外日記

でもって、非常に高学歴でいらっしゃる吉成さんが、わかりやすく、丁寧に、ズバッとこの高名(だろう)の面々に切り込んでいくのである。そして、最後には「若者に読んでおいたほうがいいと思う本はなんですか?」と聞くのである。ゆえに、万が一これを読んでいる若者がいたら、読むべきである。

各人それぞれについておれの理解できる範囲で言ってることをメモしておく。

ノーム・チョムスキー

トランプが勝ったのは珍妙で時代遅れな選挙システムのせいやで。そんでもって、トランプのおっさんの最も確かな点は、あのおっさんが不確かやっちゅうことや。本人にもわかっとらんちゃうか。

中東やけども、リビア爆撃は大失敗やったで。なんにせよ、中東は何百年にもわたって帝国主義にボコボコにされて、今もそれが続いとるんや。ISに対してもアメリカのやっとることは支離滅裂で、ISから国民を守っとるグループまで攻撃しとる。

ウクライナあたりについてやけどな、プーチンにも一分の理や。けっして一緒にディナーしたくなるようなナイス・ガイやないけどな。ソ連崩壊でしょうもない面もあったわ。あとな、トルコあたりも締め付けきつい国になっとって、クルド人とかかなりひどいことになっとる。

日本? 集団的自衛権やな。まあそもそも「自衛」なんて言葉、無意味や。単なる侵略と暴力のことや。日本の憲法は世界が見習うべきものやったのに、崩されていくのは残念ちゅうところやね。

「正義の戦争」なんてあらへんのや。アメリカの海軍司令長官が「アメリカ軍も対日戦線で同じことをしていた」言うて、潜水艦隊司令長官、最後の大統領やな、カール・デーニッツの一部の起訴内容について無罪になったくらいや。

ん、「シンギュラリティ」? そんなん空想や、ファンタジーや。ディープ・ラーニングかて実際の人間の知能とはかけ離れとる。そんなん言うとるレイ・カーツワイルみたいな連中がおしゃれなレストランでコーヒー飲みながら話とるぶんにはええけど、何の証拠もあらん話や。

まあともかく、今は「人新世(Anthropocne)」、人が環境にでかい影響を与える時代や。地球滅ぼせるんやで。気をつけて生きてかなあかんわ。

 

レイ・カーツワイル

指数関数的成長の力、これや、こいつなんや。比例直線は実感しやすいんやけども、それよりも指数関数的な成長や。「ヒトゲノム計画」んときにな、7年で1%しか解析できんかってん。それで「すべての解析が終わるにはその100倍、700年かかる」言いおるやつおったけおど、わし言うたったわ「1%終わったんなら、もうほとんど終わりに近づいている」ってな。毎年2倍ずつ結果が伸びていくから、100%になるためにはたった7回の倍々解析をつづけてけばええんよ。それで実際そうなったんよ。えらいこっちゃろ。

だから、囲碁かて自動運転かて、あっという間よ。わしの予想ではな、コンピュータがすべての分野で人間を超えるんは、2029年やと考えとる。

そうなったらどうなると思う? 寿命、延びるで。ナノマシンで免疫力の拡張や。そんでな、脳の拡張、これや。思考の規模がものっそい拡大されるで。新皮質の最上層をクラウドとつなぐんや。むっちゃすごいやろ。そしてな、2045年までには「シンギュラリティ」に達するんや。わしらの知能は10億倍や。そんでな、最後はわしらの生命は半永久的なものになるんや。

資源? そんなんソーラー・エネルギーよ。これも指数関数的にどっかーんや。食物もビルで作られるで、肉かてクローン化や。これがだんだんと貧しい人にまで行き渡っていくんやで。

まあともかく、あんさんもスマホなくしたら自分の一部がなくなったみたいに感じるやろ。もうそういう存在なんや。1世紀後には「ワォ、2016年には、人々は自己のバックアップ・ファイルなしに生きてたんだ。なんて恐ろしく危ない生き方をしていたんだろう」言うようになるで。

つまりは、進化には目的みたいなもんがあって、わしらはバイオロジーを超越(transcend)するんや。もちろん、テクノロジーには光と影もあるけど、光が勝ってゆくんやで。あとな、若いあんちゃんはガルシア=マルケスの『コレラの時代の愛』読んだらええ。言語っちゅうのはヒエラルキー構造になっとるけど、マルケスのそれは人間が持つ最高レベルの言語ヒエラルキー表現やで。

 

マーティン・ウルフ

わしは経済の話するで。トランプのな、ああいう反グローバリゼーションいうんは、だいぶ前からあったで。まあ、いうても2007~2009年の金融危機の前くらいにグローバリゼーションのピークが来てた、くらいなもんや。それにな、グローバリゼーションいうんは「全体的に平和的な環境」なしには成り立たへん。中国とアメリカが本気で喧嘩したら世界経済は停滞や。

そんでなTPP、TTIP、TiSAなんやけど、なんや、いまこれを打ってるおっさんが面倒でわからんいうから飛ばすわ。つーか、あんさんTiSAとか知っとった? わし、聞いたこともなかった。まあ、多くの国の間でなんか決めよういうても「浅い統合」にしかならんで、あんま意味ないから、地域限定をして「深い統合」を目指そういう流れがあるんやで。

ん? 「それで思い出しました。ダニ・ロドリック(経済学者、プリンストン大学高等研究所教授)が『グローバリゼーション・パラドクス』(邦訳・白水社)という著書の中で、「世界経済の政治的三すくみ(Political Trilemma)という概念を提案していました。一つ目はグローバリゼーション、二つ目は主権国家、三つ目は民主主義で、三つとも同時に成立することは不可能だと」

そうや、その通りや。でも、北朝鮮なんかは別やけど、先進国のどの国も絶対的な主権国家なんてもんは主張しとらんやろ。統合と主権維持の妥協が問題や。

あーリカードの比較優位な。ありゃあどうもうまくいかんことがわかってきとる。わしも世界銀行で貧困脱出を目的として自由貿易推し進めてきたんや。けどな、もっと税の分配とかにも介入するべきやったと今は思うとる。もっとデンマークやらスウェーデンみたいな福祉国家いうやつや。

日本か、日本なあ。日本の莫大な負債はほぼ日本国民が負っているもんや。そいで、日銀は政府のコントロール下にあって、国民は政府を信頼しとるから、政府は妥当な国内総需要を確保するための持続可能な政策を施行するってことでええんや。そいで、財政のバランスも必要やけど、それにもましてな、経済がうまく機能していくことを、責任をもってな、最優先、最優先する必要があるんやで。日本企業の莫大な余剰金をどう取り出すか、巨額な内部留保をどう活用するかが問題や。まあ。法人税を上げるのがええんちゃうか。企業が国内に投資せん現実があるけども、総需要を上げる必要があるいう場合、企業の利益をいかに家計に移し、可処分所得とするかっちゅうのが肝要やで。

ま、そんなところでな、わしの話になるけど、わしは啓蒙主義ヨーロッパの産物や。そして、古代ギリシャの有名なキャッチフレーズ「ミーデン・アガン(meden agan)「過剰にならぬように」、これが大切や。理性的であっても、理想主義であってはならん。中庸、バランスが大切や。

 

ビャルケ・インゲルス

建築家やで。まだ若いけど、すごいんやで。グーグル本社とか設計しとるで。

んでなに? レイ・カーツワイルの収穫加速の法則? そんなんで建築がファースト製品化される? そんなんないやろ。逆に建物自体はローテクになっていくんやで。

そやな、わしのスローガンは「Yes is more.」や。建築は適応のアートや。よう言われる「反体制」、「反既存スタイル」に対抗して、「過激にインクルーシブ」、これや。「イエスと言うことでより可能性が広がる」いう意味や。制約が妥協でなくクリエイティビティの基になるんや。

ほんでな、これを打ってるおっさんが建築にあんまり興味ないからこれで終わりや。

 

フリーマン・ダイソン

地球温暖化に関する議論あるやろ? あんなん無駄や! 気候科学は宗教みたいになっとる。あまりに政治的な問題になってしもうとる。もっとべつの環境問題があるやろ。アイヴァー・ジェーバー先生も、リチャード・リンゼン先生も警鐘を鳴らしとる。炭素燃料は環境保護とは関係ないんやで。今も100年前も、計測もええかげんで信用できるんか、いう話や。だいたい二酸化炭素は植物にとって有益やし、全体で比べればメリットあるんやで、はぁはぁ。

ん? 「世界を見る一つの窓がサイエンスで、もう一つの窓が宗教である。物事のメカニズムはサイエンスの問題であり、物事の意味は宗教の問題である」。おお、そりゃわしの言葉や、脳の研究も興味深いけどな、倫理感覚、美への感覚、美醜の区別、善悪の区別、そこんところはミステリーであってほしいところもあんねん。

そんで話変わって、大型ハドロン衝突型加速器について疑問あんねん。ありゃおもろないで。予測してないことを発見できへんからや。それやったらパッシブな冴えたやり方、スーパーカミオカンデみたいな方がええ。

「ひも理論」、「標準モデル」? それもこれを今打ってるおっさんがわかっとらんから省略や。ただ、「ひも理論」は素晴らしく美しい構造した数学による構成やけど、どうやって証明したらええかわからん。一方で「標準モデル」は実験に支えられとるからええ。わしも実験でえらい失敗やらかしたけど、あれはええ経験やった。『宇宙をかき乱すべきか』読んでくれや。

核? 核兵器か? 軍縮する方法でいちばんええのは、交渉とかせんで「不要だから廃棄する」いうて一方的に実行してまうのがええ。1989年に南アフリカ共和国でやったことや。核軍縮の成功や。でも、あとにつづく国はおらんかった。アメリカでもパパ・ブッシュが核軍備を半減させて陸軍と海上海軍のすべての核武装をなくしよってん。他国との折衝も協定もいらんのや。オバマくんも本気ならそうすべきやった。

原子力発電? 反対派が言うほど悪いもんでもないけどな、推進派が宣伝するほどええものでもあらへん。まあ、石炭と原子力じゃ、わしは原子力のほうがマシやと思うけど、そのあたりはおたくの国が決めることや。

トリウムを使った溶融塩原子炉? それは賛成しとったもんでな、今は中国とインドが熱心にやっとる。政治的な理由からウラニウム型が優先されてしもうた。まあ、核廃棄物の問題は一緒やけどな。

インターネットを通じた「集団知能」? 最終的には一つの生物のようなスーパー・オーガニズムになってくかもしれん。一つのシステムとして世界を支配したりするかもしれん。もう、人間でなく、ソフトウェアがコントロールしてる分野は多いんやで。

「ダイソン球」、「ダイソン・ツリー」、「アストロチキン」については、まあWikipediaでも読んでくれ。あと、「ノアの箱船卵」。地球の全ての遺伝子が入ってるダチョウの卵みたいなもんや。こっちからパンスペルミアや。

若い連中にアドバイス? あえて言うんならな、「リスクを避けるな」いうことや。リスクがこっち来よったら「イエス」言うんや。で、一回やってひどい目にあったら、二度と同じことはせんようにな。そんなところやで。

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……というわけで、人類の未来はわかっただろうか。おれはSFなんてものを読むのでいくらかは想像がつく。とはいえ、そのスピードの想像はつかん。数年前に、一般人のだれが自動車の自動運転の話をしていただろうか。ディープ・ラーニングなんて言葉を口にしていただろうか。指数関数おじさんのレイ・カーツワイル先生の予想が、もっと前倒しになってくれたら、おれもなにかすごいものが見られるのかもな、などとも思う。そこは残念だ(もっと残念に思ってるのはカーツワイル先生かもしらんが)。あと、くっそ適当な関西弁みたいなのは、文系高卒のおれが照れ隠しでやってることじゃけえ、気にせんといてな。以上。