- 作者: F.ダイソン,Freeman John Dyson,鎮目恭夫
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
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フリーマン・ダイソンの自伝である。フリーマン・ダイソンといえばだれか? ダイソン球のダイソンである。小学校で算数と理科についていけなくなったおれが読んで悪いのか。悪くはないだろう。悪くはないが理解できたともいえないだろう。とはいえ、読み切ったのだから自伝として面白いという点はあったのだろう。
……科学を技術から、技術を倫理から、または倫理を宗教から分離することは、私にとっては無意味である。本書で私は、科学と技術の成長を、破壊的な方向ではなく創造的な方向へ導く責任を結局は担っている。科学者ではない人たちに向かって話す。科学者でない諸君が、この任務を達成するためには、諸君が飼い馴らそうとしている獣の本章を理解しなければならない。
1 魔法の都
このような混合のなかにあってフリーマン・ダイソンはおもしろい。
三月のある日の午後、啓示が予期せずにやってきた。そのとき私は、次の日に行われるフットボールの試合のメンバーに選ばれているかどうかを見るために、学校の掲示板の方に歩いて行った。私の名はなかった。そして、私の頭の中を目のくらむような光が走り、私は、私の二つの問題、戦争の問題と不公平の問題、の解答を見つけた。答は驚くほど単純であった。私はそれを宇宙的合一(Cosmic Unity)と呼んだ。宇宙的合一によれば、われわれはたった一人しか存在しない。われわれはみな同じ人である。私はあなたであり、私はウィンストン・チャーチルであり、ヒトラーであり、ガンジーであり、他の誰でもあった。あなたを傷つけることは私を傷つけることだから不公平の問題は起こらない。私を殺すことは、あなたが自分自身を殺すことになるのをあなたが理解すれば、すぐに戦争の問題はなくなるであろう。
2 ファウストの救い
急に悟りのような境地に行き着く。それも、ずいぶんと若い頃に。このようなダイソンは、良心的徴兵忌避者になるが、イギリスの爆撃空軍司令部に民間人科学者として加わった。『空軍大戦略』の時代である。
経験と損失率の間の相関が消失したことを、わが軍の総司令官に認識してもらわねばならなかった。新しい事態に対処せねばならにことを告げる警告としてである。オペレーショナル・リサーチ部で、私たちは、なぜ経験がもはや爆撃機を救えなくなったのかを説明する理論を立てた。現在では私たちの理論が正しかったのが知られている。その理論は「上向発射銃法」と呼ばれた。
3 少年十字軍
フハッ、「斜銃」。月光か。いや、月光じゃない、ドイツ軍だ。そんなところに関わっていたとは。
そして、戦争、空爆について次のようなことを書いている。
カート・ヴォネガットは、ドレスデン空襲について『スローターハウス5―または少年十字軍』と題する本を書いた。長い間私はこの爆撃について一冊の本を書こうと思っていた。今はもう書く必要はない。ヴォネガットが、私が書けるよりもずっとすぐれた本を書いたのだから。
3 少年十字軍
スローターハウス5 (ハヤカワ文庫SF ウ 4-3) (ハヤカワ文庫 SF 302)
- 作者: カート・ヴォネガット・ジュニア,和田誠,伊藤典夫
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突如ヴォネガットの名前が出てくる。名作『スローターハウス5』。ヴォネガットとはべつの場所で戦争に関わっていたダイソンがそういうのだから、そうなのだろう。『スローターハウス5』はすばらしい小説である。おれもそう思う。
ダイソンは戦後アメリカに渡る。アメリカに渡ってロバート・オッペンハイマー(オッピー)やリチャード・ファインマンらとともに研究したり遊んだりする。
……これらの核設計者たちの戦時体験が私のそれとまったく異なっていたのに、私がこの一団の人々と急速かつ用意に融合してしまったのは、驚きであった。彼らは、ロス・アラモス時代のことを終日話していた。すべての話に、誇りと郷愁がみなぎっていた。これらの人々の誰にとっても、ロス・アラモス時代は偉大な体験であり、厳しい仕事と同志愛の深い幸福の時代であった。
5 科学の徒弟
原爆を落とされた国の人間としてどうかとは思うが、じっさいにそうだったのだからそうなのだろうとしか言えない。とはいえ、オッペンハイマーは「いかなる俗悪さでも、いかなるユーモアでも、いかなる強弁でも、けっして消し去ることのできないある種の素朴な感覚(crude sense)で、物理学者たちは罪を知った。そして、それは忘れ去ることのできない一つの知なのである」とインタビューで語った。これについてかつての同僚たちは拒絶を示したという。のちにオッペンハイマーは赤狩りの対象となる。
原爆のほかに日本について。
その1948年の春、もう一つ忘れられない事件が起こった。ハンスが日本からの小さな小包を受け取った。その中には京都で新しく発行された物理学雑誌『プログレス・オブ・セオレティカル・フィジックス(理論物理学の進歩)』の、最初の二冊が入っていた。
……そこには、ジュリアン・シュウィンガーの理論の中心的アイデアが、なんらの数学的技巧なしに簡単かつ明瞭に述べられていた。これは驚くべきことを意味した。ともかくも、戦争による破壊と混乱のまっただ中で、世界の他の部分とまったく孤立しながらも、トモナガは、日本で、当時他のどこになった何よりもいくつかの点で進んでいた理論物理学の一学派を維持してきたのであった。彼はシュウィンガーに五年先じて、しかもコロンビアの実験になんら助けられずに、新しい量子電気力学を独力で推し進め、その基礎を築いていた。
5 科学の徒弟
朝永振一郎おそるべし、という話である。
その後、ダイソンは政治の方にも首を突っ込んでいく。そんななかにフルシチョフ評があった。
フルシチョフを私は大変貴重な人物と感じた。他のロシア人官僚とちがって、彼は心の底から話した。どんなお雇いの演説草稿書きでも、彼の話したような草稿を書くことはとうていできなかったであろう。しばしば前後矛盾し、しばしば大言壮語するが、驚くほどしばしば人間的で個性的だ。こんなにあけっぴろげで、こんなに気まぐれな人物がロシアで権力を握っている時期は歴史上他に類がないと、私は強く感じた。
12 平和への調停
眠くなってきたので、話を飛ばす。
SF作家たちの一部は、人工生物圏というアイデアを発明した名誉を、誤って私に帰しているが、じつは私はこのアイデアを、彼らの仲間の一人であるオラフ・ステープルドンから得たのである。
「今ではあらゆる太陽系が光捕獲用の網で覆われ、その網が太陽エネルギーを逃げ出さないように集めて、知的目的のために利用しているので、銀河系全体が薄暗くなっただえでなく、太陽として使うには適さない多くの星は解体されて、貯蔵していた莫大なサブアトミック・エネルギーを奪われてしまった。」
この文章は、私が1945年にロンドンのパディントン駅で拾ったステープルドンの『星をつくる人』という一冊のボロボロの本の中で見つけたものである。
これがダイソン球。
それでもって、核エネルギーによって宇宙に進出しようという計画についても述べられていて、それもたいへんおもしろいのだが、そのあたりは本書をあたるかWikipediaでも読んでほしい。
オリオン計画(オリオンけいかく、Project Orion)またはオライオン計画(オライオンけいかく)は、アメリカにて1950年代 - 60年代にかけて行われた宇宙船の研究計画で、原子力推進宇宙船の、世界で最初の工学的な研究開発計画である。このアイデアは1955年にスタニスワフ・ウラムほかが提案した。
計画では、核分裂または核融合による爆弾を宇宙船から後部に放出し、200フィート (60m) のところで爆発させ、鋼鉄かアルミニウムの板で爆発の衝撃を受けて進むことが考えられていた。原子力を使用することにより、オリオンではロケットエンジンの理想である、大きい推力と高い噴射速度(比推力)の両方を実現する予定であった。
この計画は0.1%ほど地球の核汚染を増す(当時はバンバン核実験やっていたのだが)ということと、その危険性と、部分的核実験停止条約によって終わる。もし、これが実現化されていたら……などとSF好きは思うのだが、どうだろうか。本当にそれだけの性能が発揮されたかはわからないが、ひょっとしたらわれわれと宇宙の距離はそうとうに縮まっていたかもしれない。大きなリスクと一緒に。
……てな具合で、まあ、なんかフリーマン・ダイソン自伝を読んだよ、と。こっからつながるのはどのあたりかね。ダイソンと仲良かった『ご冗談でしょう、ファインマンさん』あたりかね。本書ではファインマンについて直感型の天才として描かれている。あと、ボンゴがうるさいと。まあいいや、おしまい。
- 作者: リチャード P.ファインマン,Richard P. Feynman,大貫昌子
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