平成三十年七月十六日、海の日、休日。おれは安アパートの、散らかった部屋でのたうち回っていた。のたうち回っていた、というのは大げさだ。ただ、ひたすら腹を下していた。腹を下してなんども手洗いに行った。もう出るものもないでしょう、というのに、なにか出る。胃は胃でむかつきがあって、ものを食うことも酒を飲むこともできない。胃薬はあるが、腸のほうとなると、新ビオフェルミンS錠しかない。ビオフェルミンはおれの腸になにかいいことをしてくれる薬だと信じているが、即効性のある強い薬ではない。ひじょうに、つらい。
思い当たる節は……これというものはない。会社内で少し風邪が流行っていた。とはいえ、三連休の三日目だ。いまさら、腹に来るか? あるいは、食あたりだ。とはいえ、前日の夜に食べたのはパスタだ。それに出来合いのソースだ。生の魚介類だの食ったわけではない。当たるようなものではない。さらに遡れば、金曜日の夜に唐突にビーフシチューを作り……それを土曜日の朝と昼に食べたが、それか? それもどうだろうか。金曜の夜にシチューを作り終えると、食べるよりさきに粗熱も取らずに冷蔵庫に入れたのだ。しかも、食べたのは土曜だ。日曜は部屋でなにもせず酒を飲んでいたが、健康であった。
さもなければ、だ。寝るとき、あまりの暑さにエアコンを「おやすみ二時間」のオフタイマー設定にしたことか? その二時間でおれの腹が冷え、自律神経だか体温調整のために腹が壊れたか? そんなんで壊れる?
まあ、わけがわからない。わからないが、夕方になって空腹というか、栄養の失調を感じてきた。食べるものはないか? お好み焼きを作る気力も体力もない。パスタは食べる気がしない。インスタント……なんかゴテゴテの油そば。これもちょっと。と、なると、食べるものがない。レトルトのおかゆか、冷凍のうどんくらい常備しておくべきなのだ。
……などと考えていると、だんだんものが食いとうなってくるから不思議なものだ。そして、ウロウロしながら「あ、そうだ」と気づいた。おれがふだん持ち歩いているバッグのなかにいろいろの薬が入っていて、その中に「赤玉はら薬」があることに気づいたのだ。こいつは古風ながら強力だ。これなら、なにか食べても夜通しうなされることないのでは?
そう思うとおれは、自転車にまたがってセブン-イレブンを目指していた。おれの腹は壊れていたが、腹は決まっていた。コンビニで、惣菜パンを買って、食う。これである。
なぜ惣菜パンか。手っ取り早く、カロリーを大量摂取できる食い物だからだ。かつては自転車の遠乗りなどをしていたから実感としてある。今必要なのはパワーだ。それだけだ。
が、これはおれの意見なのだが、セブン-イレブンの惣菜パンコーナーって面白くない。自社ブランドを並べるのはいいが、どうも種類に乏しい。おまけに、祝日の夕方というタイミングかどうか、選択肢が少ない。男子校でパンの購買に出遅れて、ラスクしか残ってない、ような気持ちになる。
しかし、麺類はどうも食う気がしない(最後に食べたのがパスタだからだろう)、米の弁当を食べる気もしない。仕方ない、ボリュームのありそうなコロッケパンとタルタルフィッシュバーガーをカゴに入れる。ん、そうだ、サンドウィッチがあるじゃないか。あまり生野菜を食べる気にもなれなかったが、野菜のを一つカゴに入れる。
野菜? ……350g……。そんな言葉が脳裏をよぎる。ここは野菜ジュースで妥協しよう。それもカゴにポイ。お会計。もう、わりと暗くなっていた。おれはのらりのらり自転車を漕いでアパートに帰った。
アパートに帰ったおれは、まさに人間発電所……というわけではないが、パンを貪り食った。野菜ジュースもごくごく飲んだ。あっという間だった。そして、赤玉はら薬を飲んだ。少し、熱があったが、解熱のための薬はなかった。なにかが落ち着くだろうと、アロチノロール塩酸塩とブロマゼパムを飲んだ。おれはまた、アニメを見始めた。どういうことだろう、今期のアニメはどれもこれも面白くて、ぜんぜん切る気が起こらない。あるいは、夢うつつのはざまにいると、すべてのアニメが面白く感じられるのだろうか。ピース。
……しかし、おれは休日によく風邪を引いたりする。毎度のことなので、毎度書いておく。まあ、いいか。
いや、よくない。生活を向上させるため、いや、いざというときの備えが足りていない。
一に食糧。やはり腹に優しく、手軽に取れるものを用意しておくべきだろう。レトルトの粥か、冷凍のうどん、これである。
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そして、はら薬、これである。「熱は解熱剤など飲まずに寝ておればよい、下痢も薬で抑えないほうがよい。それが身体の自然な作用というものだ」という考えもあるだろう。たぶん、そっちの方が主流なんじゃないだろうか。が、腹が痛いのは嫌だ。
というわけで、はら薬、これは欠かせない。あとは、解熱効果もある総合感冒薬の一つでも備えておくべきか。いくら向精神薬があったところで、もっと直接的な悪寒や気持ち悪さにはかなわない。もっとも、睡眠薬で寝てしまう、というのも一つの解だろうか。いずれにせよ、備えよ常に、だ。
……などと言って「看病してくれる人がいれば」とは露ほども思わぬところが、おれがひとりでいることの因であり果なのであろう。