神に誓って、おれに誓って、ベリヤに誓って、おれはなにも悪いことはしていない。間違った動作はなんにもなかった。ただ単に会社の駐車場の段差と呼べるかどうかという段差を越えただけだ。もう停車するのだから、スピードなんか出ているわけでもない。ほぼ垂直に、段差を乗り越えた。それだけだ。
それなのに、おれの腰にまっすぐ突き上げる衝動があり……、おれはその場にへたりこんだ。腰をやってしまった。すぐに治るかな、と思ったら治りやしない。鈍い痛みを抱えつつ、ひょろひょろと歩いて階段をのぼる。椅子に座る。痛い。いや、ある角度を維持していないと痛い。腰が、痛い。痛くない角度を探りつつ、うねうねしたり、こわごわと立ったり座ったり歩いたりする。
「病院へ行け」
新年最初の仕事の指示がこれであった。会社の人の車で近くの整形外科へ。待ち時間も椅子に座りながら「そこまで痛くないポジション」で微動だにしない。
けっこう待って(非常に丁寧な医師なのである。お年寄りが三度同じ質問をし、三度同じ答えをしたりする「こちらでは薬を出すことしかできませんし、あとは大きな病院で手術するしかないのです」。あと、大病院でそっけなく扱われたらしい老夫婦がひどく感謝したりしていた)、おれの診察。これこれこういうわけで。
「じゃあ、レントゲン撮っておきましょう」
「ありがたいです」
おれが怖かったのは、なにより「この程度の腰の痛み」と思って放置していたら、実はなんかまずい傷がついていたとか、そのせいで慢性化するとか、障害を持つはめになることだった。
そろそろりとレントゲン台に寝そべる。医師が来て「ちょっと触診します」と言って、足を触る。
「感触はありますか?」
「あります」
「親指をそらしてください。次に押してみてください」
……なにか、まずいところを損傷していたら、なにかそういう可能性まであったのだ。ちょっとヒヤッとする。とはいえ、自転車で、転ぶでもなく、たんに段差を越えただけなのだ。だが、痛いし。
して、レントゲン出力。
「非常に綺麗ですね。(なんとか)の間隔もいいです。問題はないようです」
「安心しました」
その後、小さな骨格模型で、ここのこの骨がこうなってここをこう支えているところにこうショックがあってここに衝撃があったのだ、と説明を受ける。
「2、3日痛むので我慢してください。運動は一応おさまったあとも1週間は控えてください。とにかく楽な姿勢をとるようにしてください。前かがみになると痛いそうなので、お辞儀もしなくていいです」
「正月なのに」
「一応、痛み止めを出しておきます」
「ありがとうございます」
ペコリ。
……というわけで、おみくじで「大吉」を引いたおれの仕事はじめは、いきなり病院行きとなった。いま、こうしている間も腰は痛い。変なふうにポジションをとるので、肩もこってきた。まあ、大事じゃなくてよかった。よかったよ。うん、大吉、大吉、大一大万大吉。